- Date: Sun 28 10 2012
- Category: 海外作家 ノイハウス(ネレ)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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ネレ・ノイハウス『深い疵』(創元推理文庫)
土曜は秋葉原でクライアントさんが行っているイベントに顔出し。その後、「神田古本まつり」をのぞく。けっこう盛況なのはよかったが、最近、疲れがひどくて三十分もぶらぶらしていると気力がなえること夥しい。とりあえずクロフツの『サウサンプトンの殺人』のみ購入して(これで邦訳クロフツをコンプリート)、そそくさと撤収。
実はコンプリート間近の東京創元社クライムクラブ(もちろん古い方)を一冊見つけたのだが、八千円を超える値付けにあっさりスルーしているのは内緒。
本日の読了本はネレ・ノイハウスの『深い疵』。ドイツ産の警察小説だが、もとは自費出版のスタートだったものが今ではシリーズ累計二百万部というから、ある意味シンデレラ・ストーリーだ。まあ、中身はとてもシンデレラ・ストーリーとはいえないが。
こんな話。
アメリカで大統領顧問を務めたユダヤ人の老人ゴルトベルクが殺害された。死因は第二次大戦中で使われた拳銃による射殺。そして現場には「16145」という数字が残されていた。謎が多い事件ではあったが、司法解剖の結果、さらに驚くべき事実が明らかになった。なんとゴルトベルクが彫っていた入れ墨から、彼がナチスの武装親衛隊員だったことが判明したのだ。ホロコーストの生き残りのはずの彼がなぜ……?
捜査にとりかかる主席警部のオリヴァーとピア警部だったが、やがて第二、第三の殺人が……。

実にオーソドックスでしっかりした警察小説である。
ミステリ的には決して珍しくもないナチものなので、ともすれば読者に食傷気味の印象をもたれる危険もあると思うのだが、著者はそこに壮絶なまでの人間ドラマを組み込むことで、ドイツが抱えるこの最大最悪の問題を提示しようとする。
真相は歴史の奥底深く。もはや生き証人自体が少なくなってきている今、戦時のいろいろなものが霧の中へ置いていかれようとしている。そんななか、それを決して忘れることのできない者たちの苦悩が、新たな悲劇を招くのだ。
真相は過激ながら、ストーリーはそれほど派手でもなくむしろ地味。ただし語り口が丁寧というか、ひとつひとつの描写が丹念で、いつのまにか物語世界に取り込まれていく。緻密なプロットによるところも大きいだろう。
登場人物にしても設定自体はけっこう派手なところもあるのだが、その描き方は奇をてらわないので、非常に好感がもてる。
強いて気になるところを挙げるとすれば、カットバックの多用だろう。スピード感や劇的効果を高めるメリットはあるにせよ、非常にその間隔が短いのと、対立構造が多いせいで、前半の波に乗るには少々時間がかかる。この小説のテイストからすれば、もう少し落ち着いて読ませた方がむしろ効果的ではなかったか。
まあ、その程度の欠点にはこの際目をつむろう。警察の試行錯誤や関係者の不可解な行動を積み重ね、真相が少しずつ紐解かれていく展開は、まさに警察小説の醍醐味である。
すっかり北欧ミステリのお家芸になってきた感のある警察小説だが、ドイツにもこれだけの書き手がいるとわかったのは収穫。主人公のオリヴァーとピアの動向も気になるし、これは次作が待ち遠しいシリーズだ。
実はコンプリート間近の東京創元社クライムクラブ(もちろん古い方)を一冊見つけたのだが、八千円を超える値付けにあっさりスルーしているのは内緒。
本日の読了本はネレ・ノイハウスの『深い疵』。ドイツ産の警察小説だが、もとは自費出版のスタートだったものが今ではシリーズ累計二百万部というから、ある意味シンデレラ・ストーリーだ。まあ、中身はとてもシンデレラ・ストーリーとはいえないが。
こんな話。
アメリカで大統領顧問を務めたユダヤ人の老人ゴルトベルクが殺害された。死因は第二次大戦中で使われた拳銃による射殺。そして現場には「16145」という数字が残されていた。謎が多い事件ではあったが、司法解剖の結果、さらに驚くべき事実が明らかになった。なんとゴルトベルクが彫っていた入れ墨から、彼がナチスの武装親衛隊員だったことが判明したのだ。ホロコーストの生き残りのはずの彼がなぜ……?
捜査にとりかかる主席警部のオリヴァーとピア警部だったが、やがて第二、第三の殺人が……。

実にオーソドックスでしっかりした警察小説である。
ミステリ的には決して珍しくもないナチものなので、ともすれば読者に食傷気味の印象をもたれる危険もあると思うのだが、著者はそこに壮絶なまでの人間ドラマを組み込むことで、ドイツが抱えるこの最大最悪の問題を提示しようとする。
真相は歴史の奥底深く。もはや生き証人自体が少なくなってきている今、戦時のいろいろなものが霧の中へ置いていかれようとしている。そんななか、それを決して忘れることのできない者たちの苦悩が、新たな悲劇を招くのだ。
真相は過激ながら、ストーリーはそれほど派手でもなくむしろ地味。ただし語り口が丁寧というか、ひとつひとつの描写が丹念で、いつのまにか物語世界に取り込まれていく。緻密なプロットによるところも大きいだろう。
登場人物にしても設定自体はけっこう派手なところもあるのだが、その描き方は奇をてらわないので、非常に好感がもてる。
強いて気になるところを挙げるとすれば、カットバックの多用だろう。スピード感や劇的効果を高めるメリットはあるにせよ、非常にその間隔が短いのと、対立構造が多いせいで、前半の波に乗るには少々時間がかかる。この小説のテイストからすれば、もう少し落ち着いて読ませた方がむしろ効果的ではなかったか。
まあ、その程度の欠点にはこの際目をつむろう。警察の試行錯誤や関係者の不可解な行動を積み重ね、真相が少しずつ紐解かれていく展開は、まさに警察小説の醍醐味である。
すっかり北欧ミステリのお家芸になってきた感のある警察小説だが、ドイツにもこれだけの書き手がいるとわかったのは収穫。主人公のオリヴァーとピアの動向も気になるし、これは次作が待ち遠しいシリーズだ。
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お、ブログ再開ですか。嬉しいですね。
まあ仕事もありますし、お互いゆるゆるとやっていくぐらいで丁度いいんじゃないでしょうかね。忙しないのは仕事だけで十分です(苦笑)。