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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


岸川靖/編『別冊映画秘宝 シャーロック・ホームズ映像読本』(洋泉社)

 『ミステリマガジン』の「2013年度版ミステリが読みたい!」特集や『東西ミステリーベスト100』、『横溝正史 全小説案内』あたりを立て続けに読んだせいか、ガイドブック熱が高まってしまい、ついつい映画関係のガイドブックをいくつかまとめ買いしてしまう。
 『映画秘宝ディレクターズ・ファイル ジョン・カーペンター』、『別冊映画秘宝 シャーロック・ホームズ映像読本』、『映画秘宝EX 映画の必修科目03 異次元SF映画100』、『ミステリ映画の大海の中で』の以上四冊。まあ、最後のは評論集であり、ガイドブックといっては失礼になるけれど。

 以前にも書いたかもしれないが、管理人は自分でも仕事でそういうものを作ってきたこともあって、基本的にガイドブックの類が好きである。ミステリにしても、中高生の頃はガイドブックを頼りに読み散らかしてきたし、それ以外にも文学や映画はもちろん、歴史に宗教、自然科学などなど。たとえ興味がない分野であっても、ガイドブックなら読みたいという人間である(苦笑)。

 ところでガイドブックもつまりは入門書の一種であると思うのだが、普通の入門書と決定的に違うのは、書かれている内容がすべてではないということだろう。
 私見だが、ガイドブックはその記述内容に加え、コンセプトがしっかりしているか、構成は工夫されているか、図版が効果的に用いられているか、デザインや写真などビジュアル的に美しいか、読みやすさは考慮されているか、といったトータル性能が重要である。
 初めてその世界に触れる読者に魅力をアピールし、何よりその世界のリピーターになってもらえるような工夫が必要なのである。マニア向けの企画が盛り込まれているに越したことはないが、そればかりでは作り手の自己満足に過ぎず、ガイドブックの役目を考えると本末転倒であろう。

 シャーロック・ホームズ映像読本

 さて、管理人はそんな観点でガイドブックの感想を書いているのだが、本日は先日買ったなかから『別冊映画秘宝 シャーロック・ホームズ映像読本』を取りあげてみたい。
 ホームズのガイドブックはそれこそ山ほど出ているが、なかにはパスティーシュのガイド本『シャーロック・ホームズ・イレギュラーズ』というものまで出ていぐらい切り口も多様化している。そんな中、本書は映画やテレビ化されたホームズという括りで勝負してきた。他のガイドブックでもコーナー的に取りあげられることは多いが、これだけで一冊というのはありそうでなかった企画。
 この一点だけでもポイントは高いが、肝心の中身も悪くない。

 構成は大きく2章立て。第1章が「21世紀のホームズ」、第2章が「20世紀のホームズ」と題されており、それぞれの時代の代表的な作品を紹介していくというもの(正直、そういう線引きの意味はあまりないと思うのだが)。
 特に力が入っているのが、昨年日本でも放映されて大注目を浴びた『SHERLOCK (シャーロック)』、そしてド定番のグラナダ版『シャーロック・ホームズの冒険』だが、他にはロバート・ダウニーJr.の『シャーロック・ホームズ』や今、海の向こうで人気を博しつつある『Elementary(エレメントリー)』、古いところではベイジル・ラスボーン版ホームズ、ハマー版『バスカヴィル家の犬』、ロシア版ホームズなどにページが割かれている。
 作品紹介以外では「和製ホームズ・岸田森」といった企画もの、「ホームズ映像作品リスト 映画&TV」といったデータベースも押さえている。

 ひとつひとつの特集や記事については力の入ったものも多く、特に『SHERLOCK (シャーロック)』はインタビュー関係が充実しており、ファンには嬉しいところだろう。対してグラナダ版は各話の紹介がメインで、こちらは新規さには乏しいが、こういう形にまとまられている便利さはある。
 ただ、ここは好みの問題になるかと思うが、『SHERLOCK (シャーロック)』とグラナダ版に相当数のページを割きすぎている嫌いはある。まあ、人気を考えればそれも当然ではあるが、やはり情報が入手しにくい古い作品はもう少しフォローしてもよかっただろう。特にロナルド・ハワード版ホームズは今では全作が安く買えることもあるので、こちらもグラナダ版同様、いや、その半分、いやいや三分の一でもいいから、全話の紹介記事がほしかった。
 そもそもあらためてホーズの映像化リストを見ると、こんなにあったのかという驚きしか出てこないわけで、これらを入手しようとか詳細を知りたいという欲求は当然でてくるはず。『横溝正史 全小説案内』の感想でも書いたが、無味乾燥なリストを載せて「はい、おしまい」というスタンスはいかがなものか。

 もうひとつ気になったのは誌面デザインで、正直、まったく垢抜けていない(苦笑)。これは「映画秘宝」全般に言えることなので、もしかするとこういう路線を狙っている可能性もあるのだが、ううむ、個人的にはこれはないなぁ。まあ好みもあるのだが、紙質も含めてもう少しオシャレにならんものか。
 また、写真が多い本なので、巻頭だけでなく、総ページのオールカラー化は考えてもよかったんじゃないだろうか。こちらは予算との相談なので、なかなか難しい注文だろうけれど。

 まあ、気になるところはかようにあるが、情報量自体は多くて読み応えもあり、手元にあると便利な本であることは確か。すべてのミステリファンへ、という縛りでは苦しいかも知れないが、ホームズファンなら十分に楽しめる一冊だろう。

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Comments

Edit

stepmonrin3さん

はじめまして。この度はご丁寧なコメントをありがとうございました。
ただ、申し訳ないのですが、当ブログのリンクは知人、もしくは当ブログの内容に多少なりとも関係があるサイトに限らせていただいております。
恐れ入りますがご了承のほど、よろしくお願いいたします。

Posted at 22:32 on 12 06, 2012  by sugata

Edit

はじめまして sugata様。

この場をお借りしてで申し訳ございません。
「ウソみたいな本当にあった話」のブログ記事を書いているstepmonrin3です。

今日は、相互リンクのお願いでコメントさせていただきました。

ご訪問させていただき、是非、相互リンクしたいと思いコメントいたしました。

sugata様のサイトは、こちらのブログにリンクさせていただきましたのでご確認お願いします。

私のブログは、
「ウソみたいな本当にあった話」
URL⇒http://yaplog.jp/stepmonrin3/ ←ブログURL
になります。

宜しければで結構ですので、ご検討よろしくお願いします。

Posted at 17:27 on 12 06, 2012  by stepmonrin3

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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