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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


梶龍雄『大臣の殺人』(中公文庫)

 世間はクリスマスイヴで賑わしいが、こちらは大掃除のラストスパートで忙しい。本日は水回りをほぼ終えて、これであとは窓掃除ぐらい。でもこれがけっこう面倒なんだよなぁ。
 とはいえ人並みのことは少しだけやっておこうと、夜はチキンとシャンパンで晩ご飯。けっこう飲み過ぎてしまい、ヘロヘロとしたまま読了本の感想書きなど。


 梶龍雄の『大臣の殺人』を読む。ジュヴナイルをのぞけば、これが長篇第三作。デビューから『透明な季節』『海を見ないで陸を見よう』と、戦時戦後を舞台にした青春小説的なものを書いてきた梶龍雄だが、この三作目はなんと明治を舞台にした異色本格ミステリ。意欲的な作品を書き続けるところにまずは好感が持てるわけだが、内容も相変わらずのハイレベルでとにかく嬉しくなってくる。

 時は明治初頭。体制が大きく変わり、世の中にはまだまだ騒然とした気配が残っている時代。才ありながら身を持ち崩していた元旗本の結城真吾は、新たに創設された警視庁の探偵として働いていた。
 そんなる日、結城真吾は詳細を知らされぬまま、北海道からやってきた殺人犯の捜索を命じられる。だが、彼が捜査を始めた途端、目の前で次々と殺害される重要証人たち。事件の陰に、後の首相となる黒田清隆の絡む事件があることを突き止めた結城真吾だったが……。

 大臣の殺人

 序盤はとにかく意外さだけが先に立つ。なんせ明治を舞台にし、実際の歴史や実在の人物を盛り込んだ警察小説である。山田風太郎の明治物をはじめとして、古くは日影丈吉の『ハイカラ右京探偵全集』、最近では高城高の『函館水上警察』あたりを彷彿とさせるが、テイスト自体はけっこうハードボイルドチックであり、捕物帖的でもある。
 なるほど今作は謎解き要素薄めで、ストーリーやキャラクターで読ませるのかと思いきや、これがしっかり終盤で本格として機能してくるから見事。しかも前作、前前作と同様に、この時代、この設定、この雰囲気でなければ描けないネタを仕込んでいる。
 この物語自体が伏線やトリックにつながるというパターンは、叙述ミステリと似ていながらまったく非なるもので、書き手に相当の描写力がなければ為し得ない技。それがそのまま文学味にも通じており、満足度はすこぶる高い。

 もうたまらんね。今年は梶龍雄の実力を知っただけでもよかった。というか、この作家を読み残していたのは痛恨の極みである。リアルタイムでなくてもよかったから、せめて古書価が安いうちに出会うべきだった(笑)。

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Comments

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ポール・ブリッツさん

青春物と趣はずいぶん異なるんですよね。読んでいるとこれが梶龍雄の作品であることを忘れたほどでしたが、味わい深さもサプライズもやはり一級品でした。

Posted at 00:17 on 12 26, 2012  by sugata

Edit

あっ、この本まだ読んでない(汗)

さっそく図書館に頼まなくては(汗)

Posted at 19:25 on 12 25, 2012  by ポール・ブリッツ

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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