- Date: Sat 09 03 2013
- Category: 国内作家 大下宇陀児
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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大下宇陀児『大下宇陀児探偵小説選 II 』(論創ミステリ叢書)
実は先週、会社が移転。それほど大きく離れたわけではないが、これまでの充実したランチと書店、古書店に恵まれていた神保町からは少々遠くなり、昼飯ついでに古書展をひやかすといったことはできなくなってしまった。まあ、無駄遣いしないからいいのか(苦笑)。
論創ミステリ叢書から『大下宇陀児探偵小説選 II 』を読む。主に初期の通俗スリラーをまとめていた『〜 I 』に対し、こちらは後期の社会派と呼ばれるリアル志向の作品を中心に編まれている。

「金口の巻煙草」
「三時間の悪魔」
「嘘つきアパート」
「鉄の舌」
「悪女」
「親友」
「欠伸する悪魔」
「祖母」
「宇宙線の情熱」
とりあえず小説のみ記載。本書にはこの他、多数のエッセイの類も収録されており、大下宇陀児の探偵小説観がうかがわれて実に興味深い。
上でも書いたように、大下宇陀児の興味はトリックや名探偵などといった本格探偵小説特有のガジェットから、リアルに人間心理や動機、社会問題を描くといった路線に移行していく。その真意や理由を示した文章がこうしてまとめられただけでも本書の価値がある。ひとつひとつの文章は短いものが多いけれど、物言いは力強く、非常に真面目に探偵小説に向かい合っていることがわかる。ともすると忘れられた作家扱いもされてしまうが、この時代ではやはり頭ひとつ抜けた存在であることを再認識できるだろう。
最初の三篇「金口の巻煙草」「三時間の悪魔」「嘘つきアパート」は、リアル路線への移行的作品といったところ。皮肉なオチを効かせてそこそこ楽しませるが、そこで読者に何らかのものを残せるほどの力はない。
目玉はやはり長篇『鉄の舌』か。なるほど宇陀児の目指すリアル志向とはこういうものかというイメージは理解できる。しかし、ただただ理不尽なだけの主人公の転落、しかも主人公自らも火に油を注ぐような行動をとるにいたっては正直、読むのが辛いだけである。意外な探偵役の登場、犯人確定の決め手などに多少の見どころはあるのだけれど。
ラストは一応ハッピーエンドではあるが、あれぐらいでは救われんよなぁ。
それに比べると「悪女」以降の短編は悪くない。特に「悪女」に登場する女中の伊勢、「欠伸する悪魔」に登場する容疑者の比留根市助、この二人の人物像がかなり面白くて、事件に与える影響が読ませどころである(それぞれ方向性は違うけれど)。
こういうスタイルで昇華できるのであれば、いわゆる社会派がまた違った形で成長していったのかもしれないと思ったりもするのだけれど、ただ、これはどちらかというと大下宇陀児の味であって他の作家が真似できる部分ではない気もするな。
論創ミステリ叢書から『大下宇陀児探偵小説選 II 』を読む。主に初期の通俗スリラーをまとめていた『〜 I 』に対し、こちらは後期の社会派と呼ばれるリアル志向の作品を中心に編まれている。

「金口の巻煙草」
「三時間の悪魔」
「嘘つきアパート」
「鉄の舌」
「悪女」
「親友」
「欠伸する悪魔」
「祖母」
「宇宙線の情熱」
とりあえず小説のみ記載。本書にはこの他、多数のエッセイの類も収録されており、大下宇陀児の探偵小説観がうかがわれて実に興味深い。
上でも書いたように、大下宇陀児の興味はトリックや名探偵などといった本格探偵小説特有のガジェットから、リアルに人間心理や動機、社会問題を描くといった路線に移行していく。その真意や理由を示した文章がこうしてまとめられただけでも本書の価値がある。ひとつひとつの文章は短いものが多いけれど、物言いは力強く、非常に真面目に探偵小説に向かい合っていることがわかる。ともすると忘れられた作家扱いもされてしまうが、この時代ではやはり頭ひとつ抜けた存在であることを再認識できるだろう。
最初の三篇「金口の巻煙草」「三時間の悪魔」「嘘つきアパート」は、リアル路線への移行的作品といったところ。皮肉なオチを効かせてそこそこ楽しませるが、そこで読者に何らかのものを残せるほどの力はない。
目玉はやはり長篇『鉄の舌』か。なるほど宇陀児の目指すリアル志向とはこういうものかというイメージは理解できる。しかし、ただただ理不尽なだけの主人公の転落、しかも主人公自らも火に油を注ぐような行動をとるにいたっては正直、読むのが辛いだけである。意外な探偵役の登場、犯人確定の決め手などに多少の見どころはあるのだけれど。
ラストは一応ハッピーエンドではあるが、あれぐらいでは救われんよなぁ。
それに比べると「悪女」以降の短編は悪くない。特に「悪女」に登場する女中の伊勢、「欠伸する悪魔」に登場する容疑者の比留根市助、この二人の人物像がかなり面白くて、事件に与える影響が読ませどころである(それぞれ方向性は違うけれど)。
こういうスタイルで昇華できるのであれば、いわゆる社会派がまた違った形で成長していったのかもしれないと思ったりもするのだけれど、ただ、これはどちらかというと大下宇陀児の味であって他の作家が真似できる部分ではない気もするな。
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だめでした。すべてが誇張しすぎで、リアル志向の割には作りすぎのストーリーだと思いました。ただ、仰るようにプロットは確かによく計算されていますし、そこは初期の作品にはない上手いところですね。
私が嫌だなと感じるのは、あくまで味つけや演出の部分の話ですので、そこは人によって好みの違いが出るところだと思います。とはいえ、何の罪もないヒロインが世間に淫売呼ばわりされ、その結果、憎からず思う人にも嫌われ、挙げ句に失明するという設定には、正直、魅力を感じませんでした。
>論創社さんには、戦後作品に的をしぼった『大下宇陀児探偵小説選Ⅲ』も出してもらいたいものですが・・・さて?
どこでもいいですから全集を出してほしいです(笑)。絶対、買うんですけどね。