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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

モーリス・ルブラン『ルパン、最後の恋』(ハヤカワミステリ)

 モーリス・ルブランの『ルパン、最後の恋』を読む。ルブランの遺族が封印していた幻の未発表作ということで、まさかこの年になってアルセーヌ・ルパンものの新作を読めるとは思わなかった。
 もちろん封印されていたのにはわけがあって、つまりはルブランが執筆中に亡くなったため、推敲が完全ではなかったことから世に送る水準ではないと遺族が判断したせいらしい。その後、遺族も代が変わり、ルブランの孫娘がたまたまその原稿を発見。ルブランの死後七十年というタイミングもあって、出版社がルパンものの復刻本を企画中だったこと、また、フランスでの著作権が切れる時期ということもあって、出版に踏み切ったのだという。

 こんな話。シルヌ大公が自殺を遂げ、一人娘のコラは深い悲しみに沈んでいた。そんな彼女に残された遺書には、驚くべき事実が記されていた。彼女をとりまく四人の紳士のなかには、かのアルセーヌ・ルパンがいる。何かの折には彼を信頼し頼るようにというのだ。やがて、コラは大公の実の娘ではなく、英国王室の血を引く身分であることが明らかになると、彼女の身辺には陰謀の陰がちらつきはじめ……。

 ルパン、最後の恋

 ミステリや冒険小説として傑作かと訊かれれば、やはり厳しいと言わざるをえない。描写や説明が完全でないというか、ここはもう少し膨らませたかったのではないかなぁと思わせる場面も多く、基本的には粗っぽい段階の小説である。コラを取り巻く四銃士の描写も一部を除けば物足りないし、またプロローグの活かし方、中盤以降の展開もあっさりしたものだ。

 とはいえ一度はルパンにはまった者が読む分には、十分楽しい一冊であることも確か。
 ルパンの生き方や晩年に向けての夢がガッツリ語られているし、ルパン版少年探偵団の活躍もこれまた楽しい。全般に描写が弱い本作のなかにあって、少年少女の部分だけは活きいきとしてひときわ輝いてみえる。
 そういった子供たちや明るい未来社会への希望を膨らませつつ、ハッピーエンドを迎える本作は、考えればシリーズ最終作として実にふさわしい内容と言えるのかもしれない。

 ちなみに本書は宝塚で舞台化されることもあって、早々に文庫化されている。まあ、それはいいのだが、なんと併録の短編が異なっている。
 まず、ポケミス版は『アルセーヌ・ルパンの逮捕』の初出版。創元の『怪盗紳士リュパン』などに収録されているものと比べると、それこそルブランの推敲癖がよくわかるはずだ。
 一方の文庫版はこれに加えて、バーネットものの短篇「壊れた橋」も収録されている。これはなぜか英米版のみに収録されている作品だそうで、フランス版をもとにした新潮文庫の『バーネット探偵社』では未収録とのこと。ううむ、商売がうまいのう(苦笑)。

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Comments
 
Sphereさん

>後ろに短編が入ってるって知らなくて、まだもう一波乱あるんだろうと思って読んでたらいきなり「〜最後の恋」の話が終わってしまって目が点になりました。

ああ、それは驚きますね。残りのページ数でけっこうそういうのって予測しちゃいますもんね。予想外に解説が充実していて、20ページぐらいあるときもショックです(笑)。え、もうラストって感じ。
 
むむ、文庫版は併録の短編がちがうとは知りませんでした〜。
ちなみにポケミス版で読んだときは後ろに短編が入ってるって知らなくて、まだもう一波乱あるんだろうと思って読んでたらいきなり「〜最後の恋」の話が終わってしまって目が点になりました。推敲中だっただけあって、ちょっとあっさりしてますよね(^^;

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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