- Date: Sun 30 06 2013
- Category: 国内作家 中町信
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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中町信『三幕の殺意』(創元推理文庫)
中町信の『三幕の殺意』を読む。2008年に刊行された著者の遺作となる作品だが、もとは1968年に発表された中編「湖畔に死す」を長篇化したものだ。
実はさらにこの前に短編バージョンがあるのやらないのやらという話が解説に載っていたりするので、興味ある方はぜひ現物で。
それはともかく中身である。
昭和四十年の十二月初旬。景勝の地として知られる尾瀬沼の湖畔に立つ朝日小屋。夏は登山客で賑わうこの山荘も、冬のいまは人気も少ない。その朝日小屋に今年初めての雪が降り積もった夜、離れに暮らす日田原聖太が殺害された。
天候の悪化により孤立した山荘の状況から、容疑者は山荘に泊まった者、もしくはそこで働く者に限られている。宿泊客の一人、津村刑事を中心に、お互いのアリバイを検証してゆくが、なんとその日の宿泊客はいずれもが日田原に恨みを持つ者ばかりであった……。

いわゆる「嵐の山荘」テーマである。読者への挑戦も挿入されたり、帯には「最後の三行に潜む衝撃」などとやらかしているので、本格探偵小説として著者、編集者ともに相当ハードルを上げている感じだが、これは少々無理をしすぎている。オーソドックスな本格ミステリとして楽しむことはできたものの、そこまでの傑作ではないだろう。なんせ著者自身ももとの中編を「出来の悪い」とまで書いているぐらいなのである(もちろん謙遜はかなり入っているだろうが)。
特に「最後の三行に潜む衝撃」は、メインのキャッチとして謳うのはいかがなものか。確かにオチそのものは皮肉が効いていて面白いのだけれど、これは他の中町作品にある物語世界をひっくり返すタイプのものではなく、あくまでプラスアルファの遊びである。メインの仕掛けとはまったく関係ないオチをウリにされてもなぁ。
「嵐の山荘」ものとしてみた場合でも、緊迫感が少々足りないのは残念。殺人犯と同じ宿にいて逃げ場がない、という状況ながら、登場人物たちはそこそこのんびりムードである。サスペンスをもう少し高めるとか、あるいは逆にブラックユーモアを押し出すとか、もうすこし雰囲気作りにはこだわってもよかったのではないか。宿泊客と被害者の遺恨をカットバック的に見せる序盤などはなかなか盛り上がるだけに、よけい惜しまれる。
そういったマイナス要素を除くと、本格としては比較的まとまりのある作品である。上に書いたが序盤のムードは悪くないし、刑事を中心にアリバイをコツコツと検証してゆく展開なども手堅い。小物の使い方、例えばストーブへの疑問を足がかりにしてロジックを組み立てていく手際もこなれている。
ただ、これらはストレートに面白さに直結するところではないだけに、どうしても印象としては損をしてしまうだろう。無茶を承知で書けば、ラストの三行を活かしたかったのであれば、構成をすべてその人物中心で組んだ方がよかったのではないだろうか。
実はさらにこの前に短編バージョンがあるのやらないのやらという話が解説に載っていたりするので、興味ある方はぜひ現物で。
それはともかく中身である。
昭和四十年の十二月初旬。景勝の地として知られる尾瀬沼の湖畔に立つ朝日小屋。夏は登山客で賑わうこの山荘も、冬のいまは人気も少ない。その朝日小屋に今年初めての雪が降り積もった夜、離れに暮らす日田原聖太が殺害された。
天候の悪化により孤立した山荘の状況から、容疑者は山荘に泊まった者、もしくはそこで働く者に限られている。宿泊客の一人、津村刑事を中心に、お互いのアリバイを検証してゆくが、なんとその日の宿泊客はいずれもが日田原に恨みを持つ者ばかりであった……。

いわゆる「嵐の山荘」テーマである。読者への挑戦も挿入されたり、帯には「最後の三行に潜む衝撃」などとやらかしているので、本格探偵小説として著者、編集者ともに相当ハードルを上げている感じだが、これは少々無理をしすぎている。オーソドックスな本格ミステリとして楽しむことはできたものの、そこまでの傑作ではないだろう。なんせ著者自身ももとの中編を「出来の悪い」とまで書いているぐらいなのである(もちろん謙遜はかなり入っているだろうが)。
特に「最後の三行に潜む衝撃」は、メインのキャッチとして謳うのはいかがなものか。確かにオチそのものは皮肉が効いていて面白いのだけれど、これは他の中町作品にある物語世界をひっくり返すタイプのものではなく、あくまでプラスアルファの遊びである。メインの仕掛けとはまったく関係ないオチをウリにされてもなぁ。
「嵐の山荘」ものとしてみた場合でも、緊迫感が少々足りないのは残念。殺人犯と同じ宿にいて逃げ場がない、という状況ながら、登場人物たちはそこそこのんびりムードである。サスペンスをもう少し高めるとか、あるいは逆にブラックユーモアを押し出すとか、もうすこし雰囲気作りにはこだわってもよかったのではないか。宿泊客と被害者の遺恨をカットバック的に見せる序盤などはなかなか盛り上がるだけに、よけい惜しまれる。
そういったマイナス要素を除くと、本格としては比較的まとまりのある作品である。上に書いたが序盤のムードは悪くないし、刑事を中心にアリバイをコツコツと検証してゆく展開なども手堅い。小物の使い方、例えばストーブへの疑問を足がかりにしてロジックを組み立てていく手際もこなれている。
ただ、これらはストレートに面白さに直結するところではないだけに、どうしても印象としては損をしてしまうだろう。無茶を承知で書けば、ラストの三行を活かしたかったのであれば、構成をすべてその人物中心で組んだ方がよかったのではないだろうか。
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