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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


大坪砂男『大坪砂男全集2天狗』(創元推理文庫)

 創元推理文庫版の大坪砂男全集から第二巻の『天狗』を読了。テーマ別に編まれた本全集だが、第二巻は奇想&時代篇という構成。

 大坪砂男全集2天狗

第一部 奇想篇
「天狗」
「盲妹」
「虚影」
「花束(ブーケ)」
「髯の美について」
「桐の木」
「雨男・雪女」
「閑雅な殺人」
「逃避行」
「三ツ辻を振返るな
「白い文化住宅」
「細川あや夫人の手記」

第二部 時代篇
「ものぐさ物語」
「真珠橋(またまばし)」
「密偵の顔」
「武姫伝」
「河童寺」
「霧隠才蔵」
「春情狸噺」
「野武士出陣」
「驢馬修業」
「硬骨に罪あり」
   
「天狗」(初稿版)
「変化の貌」(「密偵の顔」異稿版)


 収録作は以上。他にも大坪砂男について書かれた乱歩や都筑道夫、夫人らのエッセイ類も多く収録されており、相変わらず編者日下三蔵氏の仕事は素晴らしい。

 以前にも書いたが、大坪砂男の作品の特徴は練りに練った文章にある。その文章から語られるのは人間の心理の機微であり、それをなぜか論理でもって料理しようとすることで、結果、誰にも真似できないアンバランスな魅力を備えた作品として昇華するのである。

 だが本書を読んで、そのストーリーテラーぶりや発想の豊かさも見直すことができたのは収穫。とりわけ時代物は現代物に比べるとより自由に書かれている印象を受け、文章の呪縛から少し逃れているようにも思える。
 特に「密偵の顔」は猿飛佐助をネタにした、山田風太郎を彷彿とさせる時代物。先に書いたように発想の凄さを感じさせる一篇だ。

 現代物では何といっても「天狗」。
 「天狗」ばかりが取り上げられることが多い大坪作品だが、他の作品にも良いものがまだまだあり、この全集でそんな魅力が広く伝わればよいなぁと、まるで版元のような気持ちにすらなっていたのだが(笑)、いや、やはり「天狗」は頭ひとつ抜けている。
 二十ページにも満たない小品。今でいうストーカー男の企てが、非常に密度の濃い文章でみっちりと描かれる様は正に大坪砂男の真骨頂。ちんけな動機がとんでもなロジックでシュールな犯罪へと化けていくその過程に唸る。

 個人的には、珍しく二人の登場人物による対話がほとんどを占める「白い文化住宅」も好み。科学者の妻の死の真相をめぐる対決が、徐々にシュールな色合いを帯びてくるのが大坪テイストである。

 さて、これで全集も折り返し地点。残り二冊もとっくに刊行されているが、大事に大事に読んでいきたい。

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Comments

Edit

Ksbcさん

薔薇十字社版をもっている身としては辛いところもありますが、やはりいいものはいいですね。この全集は必携です。

『追憶の殺意』は先日私も買いましたが、まったく事前情報を入手していなかったため、書店でのけぞりました。この調子でいくと全作『〜の殺意』でいっちゃうんでしょうかね(笑)。

Posted at 23:55 on 08 26, 2013  by sugata

Edit

こんにちは。
『天狗』は、鬼気迫る"妖気"を発してりますが、sugataさんも書かれている通り、奇想篇はもちろんのこと時代篇も"奇想"が溢れて個人的"好物"でした。
本当に、この日下氏のお仕事は素晴らしいと思います。

私は、引き続き引っ越しのあおりを受けて週末は、もっぱら片付けと近所の状況把握に追われ、疲れもあって本を開くとあっという間に睡魔が…という日々を送っております。
現在中町信『追憶の殺意』を手にしているのですが、全く進んでいません。
ずいぶん目処も付きましたので、ぼちぼち巻き返しを目指します。

Posted at 10:31 on 08 26, 2013  by Ksbc

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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