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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

大阪圭吉『大阪圭吉作品集成』(盛林堂ミステリアス文庫)

 西荻窪にある古書店、盛林堂書房さんでは「盛林堂ミステリアス文庫」というものを発行している。今ではあまり読まれなくなってしまった作品、あるいは入手困難な作品から、これはというものを紹介しようと始めたもの。しかもラインナップが幻想小説や探偵小説を中心としているので、これは堪りません。

 大阪圭吉作品集成

 本日の読了本はそんな盛林堂ミステリアス文庫の一冊で、『大阪圭吉作品集成』。
 大阪圭吉については今さら言うこともないだろう。古き良き時代の作家ではあるが近年再評価が進み、今では戦前を代表する本格探偵小説の書き手として評価が定着している作家である。
 今では代表作が創元推理文庫などで読めるようになったが、それでも古書価格は凄まじいものがあり、その全作品を読むことは至難の業。大手出版社ではなかなか実現できない企画が、こういう市井の古書店から生まれてくるというのが素晴らしい。
 収録作は以下のとおり。もちろんレアな作品ばかりである。

「水族館異変」
「香水紳士」
「求婚廣告」
「告知板の女」

 「水族館異変」は著者には珍しい怪奇幻想系の短編。乱歩を彷彿とさせるパノラマ趣味やエログロを前面に押し出した内容だが、意外にこなれている。水族館の水槽を隔てた中と外で交互に繰り広げられるドラマの対比が面白いし、退廃的な雰囲気も悪くなく、この手の作品ももっと書いてもらいたかったと思わせる一作。
 「香水紳士」はもともと少女向けの雑誌に書かれたもの。オチは他愛ないと言えば他愛ないが、少女の心理や不安を活き活きと描いていて楽しい。
 「求婚廣告」はドイルの「赤毛連盟」を連想させる物語。アイディアはともかく、テンポ、真相ともにいまいち。ヒロインの魅力も伝わらないので、ラスト一行も効いてこない。本書のなかでは一番物足りなかった。
 「告知板の女」は駅の伝言板に振り回される男のドタバタを描いたユーモア・ミステリー。かなり無理のある話ではあるが、こちらはテンポ良く進み、ロマンスも含めて楽しく読めた。

 代表作はあらかた創元推理文庫や国書刊行会の本に収録されているだろうから、本書はあくまで拾遺集的なものだと思っていたのだが、いやいや、これがなかなか悪くない出来でありました。
 大阪圭吉の幻の作品はまだまだ残っているので、関係者にはぜひ今後とも頑張っていただきたいものである。
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Comments
 
Ksbcさん

お引っ越し&出張、お疲れ様でした。私も今月はイベント運営などに関わっていたりして、バタバタ続きの一ヶ月です。

『大阪圭吉作品集成』は楽しめました。盛林堂さんには今後も頑張ってほしいものですが、ただ、新刊情報はお店のブログで確認するしかないので、けっこう忘れがちというか、ぶっちゃけ買い逃しが多いです(泣)。大阪圭吉も二回目の予約告知でようやく買えたんですよね。危なかったです。
 いい仕事してますね。
引越し後1ヶ月、だいぶ落ち着きました。
先週は根室へ出張で取りかかっているプリースト『夢幻諸島から』を思ったより読み進めることができずにいます(何ではわかりませんが、すぐ眠くなって…つかれてるんでしょうかね)。
この盛林堂ミステリアス文庫は、「いい仕事してますね。」ということで、文句なしの内容だと思います。
引き続き盛林堂さんの頑張りに期待しています。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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