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日影丈吉『多角形』(徳間文庫)
日影丈吉の『多角形』読了。
月刊誌「木星」の編集長、落合のもとへ無名の作家から投稿原稿が送られてきた。伊豆のある地を舞台に、新旧の病院の対立を背景にした推理小説である。技術的にはさほどのことはないと思われたその小説だが、不思議と落合を惹き付けるものがあった。ただ、後半が省かれていたため、どのようなラストが待ち受けているのか判らず、犯人もトリックも伏せられたままであった。
落合は休暇がてら作品の舞台と思われる蘭生へ訪れることにする。そこではなんと小説そのままの人々が、小説そのままに争いを起こしているではないか。この小説は果たして実話なのか? そんななか争いごとの一方の当事者、宇佐院長が車の事故を装って殺されるという事件が起こる。警察の捜査とは別に、落合は独自に調査を開始するが……。
本書は主人公落合が精神科医に語った話という設定で記述される。いわゆる叙述形式であるが、さらには途中から新聞記者、洲本という人物が登場し、彼の目を通しても事件が記述される。ミステリマニアならこの時点で、ある種の仕掛けが存在することを想像できるだろうが、まあ、古くさいというなかれ。書かれた時代を考慮すれば、この手はけっこう新鮮であり、物語にはすんなり引き込まれてゆく。作者には明らかにこのミステリ的仕掛けを楽しんでいるふしもあり、しかも登場人物たちにミステリ論を語らせるなど、遊び心に満ちた一冊であるといえるだろう。
ただ、アイデアありきという面が強く、強引というほどではないにせよ話を書き急いでいるふしもみられるのが残念。無名作家の扱い、落合と酢本の記述の書き分けなど、もっとじっくり書いてもいいのにと思う。特に酢本の描写に関しては落合に比べて淡白というか、かなり物足りない。また、先日読んだ『移行死体』もそうだが、発端に比べて終盤はいまひとつ盛り上がりに欠けるところがあり、やはり基本的には長編に向いていない作家だったのだろうか。作者のミステリを語るときに忘れたくない作品ではあるが、代表作とは言い難いだろう。
月刊誌「木星」の編集長、落合のもとへ無名の作家から投稿原稿が送られてきた。伊豆のある地を舞台に、新旧の病院の対立を背景にした推理小説である。技術的にはさほどのことはないと思われたその小説だが、不思議と落合を惹き付けるものがあった。ただ、後半が省かれていたため、どのようなラストが待ち受けているのか判らず、犯人もトリックも伏せられたままであった。
落合は休暇がてら作品の舞台と思われる蘭生へ訪れることにする。そこではなんと小説そのままの人々が、小説そのままに争いを起こしているではないか。この小説は果たして実話なのか? そんななか争いごとの一方の当事者、宇佐院長が車の事故を装って殺されるという事件が起こる。警察の捜査とは別に、落合は独自に調査を開始するが……。
本書は主人公落合が精神科医に語った話という設定で記述される。いわゆる叙述形式であるが、さらには途中から新聞記者、洲本という人物が登場し、彼の目を通しても事件が記述される。ミステリマニアならこの時点で、ある種の仕掛けが存在することを想像できるだろうが、まあ、古くさいというなかれ。書かれた時代を考慮すれば、この手はけっこう新鮮であり、物語にはすんなり引き込まれてゆく。作者には明らかにこのミステリ的仕掛けを楽しんでいるふしもあり、しかも登場人物たちにミステリ論を語らせるなど、遊び心に満ちた一冊であるといえるだろう。
ただ、アイデアありきという面が強く、強引というほどではないにせよ話を書き急いでいるふしもみられるのが残念。無名作家の扱い、落合と酢本の記述の書き分けなど、もっとじっくり書いてもいいのにと思う。特に酢本の描写に関しては落合に比べて淡白というか、かなり物足りない。また、先日読んだ『移行死体』もそうだが、発端に比べて終盤はいまひとつ盛り上がりに欠けるところがあり、やはり基本的には長編に向いていない作家だったのだろうか。作者のミステリを語るときに忘れたくない作品ではあるが、代表作とは言い難いだろう。
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