- Date: Sat 19 10 2013
- Category: 国内作家 松本清張
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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松本清張『点と線』(新潮文庫)
光文社文庫の『松本清張短編全集』をすべて読み終えたのが昨年の五月。しばらく時間が空いたけれど、そろそろ長篇も手を出すことにした。
ミステリの読書ブログと謳っておきながら、正直、管理人はこれまで清張の長篇は数作しか読んでいない。理由は明白。若いときから社会派ミステリというジャンルに浪漫を感じられず、ほぼ読まず嫌いで来ただけである。確かに数作は読んだけれど、これまた若いときはそれほど面白みを感じられなかったこともある。
ところが人間変わるもので、『松本清張短編全集』が文庫化されたのを機に試してみたところ、これがまあ面白いのなんの。結局足かけ三年ほどかけて読み終え、ようやく長篇の順番がきたというわけである。
で、最初の一冊はもちろん長篇第一作の『点と線』。ン十年ぶりの再読である。
今さら感はすごいものがあるけれど(笑)、一応ストーリーから。
機械工具商を営む安田辰郎は、行きつけの料亭「小雪」の仲居2人に見送られ、東京駅の13番線ホームに立っていた。そのとき三人は向かいの15番線ホームに、同じく「小雪」で働くお時が男性と特急列車「あさかぜ」に乗り込むところを目にする。
それから数日後。お時と男性が福岡県香椎の海岸で死体となって発見される。男性の名は佐山。世間を賑わす汚職事件の関係者であったことから、それを苦にした心中事件に思われた。
しかし、ベテラン刑事の鳥飼はどこか納得がいかなかった。列車食堂の受取証が気にかかり、一人で捜査を開始する。一方、汚職事件を追っていた東京の刑事、三原は心中事件を追って九州へ向かった……。

若い頃に読んだときはあまり面白みを感じられなかったと書いたばかりだが、これだけは当時も別格。十分に楽しく読めた記憶があり、今回あらためて読んでみて、さらにその意を強くした。
本作は松本清張の長篇第一作というばかりでなく、社会派ミステリの幕開けを告げる記念すべき作品でもあるわけだが、そんな冠をつけるまでもなく、まずミステリとして十分に面白いのである。
ポイントはいくつかあろうが、何といってもクロフツばりのアリバイ崩しがあげられるだろう。さすがにメイントリックは今となっては驚きも少ないが、警察の地道な捜査によって少しずつ真相が紐解かれていく様は実にスリリング。しかも読者の少しだけ先をゆく展開が非常に巧みで、ぐいぐい引き込まれてゆく。冒頭の東京駅のホームのシーンが、四分間の空白として、後半に生きてくるプロットもさすがだ。
完璧に思われた犯罪が、その完璧さによって逆に作為的だと鳥飼刑事が着目するという流れも楽しい。このあたりはコロンボとも共通する部分で、どちらかというと鵜飼は脇役ではあるのだが、キャラクター的には主役の三原刑事を上回る存在感を見せつけるのもなかなか。
褒めついでにもうひとつ挙げると、動機や犯人像もなかなかよいのだ。動機については社会派ミステリと呼ばれる所以でもあるので今さら述べるまでもないが、犯人像は軽く衝撃を受けるぐらいの仕掛けが施されている。
そういった数々のポイントがカチッとまとまった本作、つまらないわけがないのである。ちょっとした傷もないわけではないし、ラストはできれば書簡というスタイルにしてほしくなかったと思うのだが、それはこの際、目をつぶる。
社会派なんて、と食わず嫌いの方にもぜひおすすめしたい傑作。
ミステリの読書ブログと謳っておきながら、正直、管理人はこれまで清張の長篇は数作しか読んでいない。理由は明白。若いときから社会派ミステリというジャンルに浪漫を感じられず、ほぼ読まず嫌いで来ただけである。確かに数作は読んだけれど、これまた若いときはそれほど面白みを感じられなかったこともある。
ところが人間変わるもので、『松本清張短編全集』が文庫化されたのを機に試してみたところ、これがまあ面白いのなんの。結局足かけ三年ほどかけて読み終え、ようやく長篇の順番がきたというわけである。
で、最初の一冊はもちろん長篇第一作の『点と線』。ン十年ぶりの再読である。
今さら感はすごいものがあるけれど(笑)、一応ストーリーから。
機械工具商を営む安田辰郎は、行きつけの料亭「小雪」の仲居2人に見送られ、東京駅の13番線ホームに立っていた。そのとき三人は向かいの15番線ホームに、同じく「小雪」で働くお時が男性と特急列車「あさかぜ」に乗り込むところを目にする。
それから数日後。お時と男性が福岡県香椎の海岸で死体となって発見される。男性の名は佐山。世間を賑わす汚職事件の関係者であったことから、それを苦にした心中事件に思われた。
しかし、ベテラン刑事の鳥飼はどこか納得がいかなかった。列車食堂の受取証が気にかかり、一人で捜査を開始する。一方、汚職事件を追っていた東京の刑事、三原は心中事件を追って九州へ向かった……。

若い頃に読んだときはあまり面白みを感じられなかったと書いたばかりだが、これだけは当時も別格。十分に楽しく読めた記憶があり、今回あらためて読んでみて、さらにその意を強くした。
本作は松本清張の長篇第一作というばかりでなく、社会派ミステリの幕開けを告げる記念すべき作品でもあるわけだが、そんな冠をつけるまでもなく、まずミステリとして十分に面白いのである。
ポイントはいくつかあろうが、何といってもクロフツばりのアリバイ崩しがあげられるだろう。さすがにメイントリックは今となっては驚きも少ないが、警察の地道な捜査によって少しずつ真相が紐解かれていく様は実にスリリング。しかも読者の少しだけ先をゆく展開が非常に巧みで、ぐいぐい引き込まれてゆく。冒頭の東京駅のホームのシーンが、四分間の空白として、後半に生きてくるプロットもさすがだ。
完璧に思われた犯罪が、その完璧さによって逆に作為的だと鳥飼刑事が着目するという流れも楽しい。このあたりはコロンボとも共通する部分で、どちらかというと鵜飼は脇役ではあるのだが、キャラクター的には主役の三原刑事を上回る存在感を見せつけるのもなかなか。
褒めついでにもうひとつ挙げると、動機や犯人像もなかなかよいのだ。動機については社会派ミステリと呼ばれる所以でもあるので今さら述べるまでもないが、犯人像は軽く衝撃を受けるぐらいの仕掛けが施されている。
そういった数々のポイントがカチッとまとまった本作、つまらないわけがないのである。ちょっとした傷もないわけではないし、ラストはできれば書簡というスタイルにしてほしくなかったと思うのだが、それはこの際、目をつぶる。
社会派なんて、と食わず嫌いの方にもぜひおすすめしたい傑作。
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いえいえ、そんなことは(笑)。
でもこのコメントの方が面白かったり(苦笑)