- Date: Sat 02 11 2013
- Category: 国内作家 連城三紀彦
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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連城三紀彦『戻り川心中』(講談社文庫)
今回も追悼読書。連城三紀彦の「花葬」シリーズを集めた短編集『戻り川心中』を読む。
本当は「花葬」シリーズをすべて収録したハルキ文庫版でいきたかったのだが、あいにく積ん読の山から発掘することができなかったので本日は講談社文庫版で。収録作は以下のとおり。
「藤の香」
「桔梗の宿」
「桐の柩」
「白蓮の寺」
「戻り川心中」

いやあ、やはりこれは凄い。
管理人としては二十年ぶりぐらいの再読になるのだが、傑作とはいえ多少は思い出補正がかかっているかと思いきや、いま読んでも文句なしのオールタイムベスト級である。
その最大の魅力は言うまでもなく、豊かな文学性と驚愕のトリックの融合にある。詩情溢れる文体、ロマンチズムに彩られた世界観……美しさ、哀しさ、妖しさなどが渾然一体となって語られる物語はそれだけでも素晴らしいのに、終盤でその物語が根底から覆されたとき、知的なカタルシスと深い感動が同時に襲ってくるという、このうえない贅沢を味わえる。しかも収録された作品がほぼすべて傑作といってよいレベル。正に奇跡的な一冊である。
以下、作品ごとの感想など。
「藤の香」は色街で起きた連続殺人事件を扱う。犯人は語り手の愛人が住む長屋の隣に住む代書屋と思われたが……。色街と代書屋という、当時ならではの設定の活かし方が見事。真相には驚かされるが、切ない余韻もまた味わい深い。
「桔梗の宿」も色街での殺人事件。死体の手には桔梗の花が……というイメージが鮮やか。プロットの妙を堪能できる作品だが、こちらもまたラストでのどんでん返しが哀しみをいっそう深くする。
ハードボイルド風味の「桐の柩」は下っ端ヤクザによる語り。兄貴の命ずるままに殺人を犯すが、その兄貴の動機が秀逸。ヤクザのしのぎと奇妙な三角関係を織り交ぜ、独特の世界を構築しているのも素晴らしい。
「白蓮の寺」はトリッキーという意味だけなら本書中でもトップクラス。語り手の少年時の記憶だけを拠りどころとして、なぜこれだけの驚くべき真相に持っていくことができるのか。物語の重ね方が鮮やかすぎる。もちろんトリッキーなだけではなくて、その隠された動機が非常に心を揺さぶるのである。
表題作の「戻り川心中も凝りに凝っている。二度の心中事件を起こし、最終的には自害した近代の天才歌人・苑田岳葉。彼の生涯を小説にしようとした語り手は、苑田岳葉の残した歌、そして関係者らへの聞き込みで、苑田岳葉の心中事件と自殺の真相に気づいてゆく……。
その昔、木々高太郎と甲賀三郎の間で勃発した探偵小説芸術論争というものがあったが、当時、連城三紀彦がいれば、そんな論争などほぼ無意味だったような気がする。それぐらい本書は文芸とミステリの垣根をやすやすと越えた大傑作なのである。未読の方はぜひ。
本当は「花葬」シリーズをすべて収録したハルキ文庫版でいきたかったのだが、あいにく積ん読の山から発掘することができなかったので本日は講談社文庫版で。収録作は以下のとおり。
「藤の香」
「桔梗の宿」
「桐の柩」
「白蓮の寺」
「戻り川心中」

いやあ、やはりこれは凄い。
管理人としては二十年ぶりぐらいの再読になるのだが、傑作とはいえ多少は思い出補正がかかっているかと思いきや、いま読んでも文句なしのオールタイムベスト級である。
その最大の魅力は言うまでもなく、豊かな文学性と驚愕のトリックの融合にある。詩情溢れる文体、ロマンチズムに彩られた世界観……美しさ、哀しさ、妖しさなどが渾然一体となって語られる物語はそれだけでも素晴らしいのに、終盤でその物語が根底から覆されたとき、知的なカタルシスと深い感動が同時に襲ってくるという、このうえない贅沢を味わえる。しかも収録された作品がほぼすべて傑作といってよいレベル。正に奇跡的な一冊である。
以下、作品ごとの感想など。
「藤の香」は色街で起きた連続殺人事件を扱う。犯人は語り手の愛人が住む長屋の隣に住む代書屋と思われたが……。色街と代書屋という、当時ならではの設定の活かし方が見事。真相には驚かされるが、切ない余韻もまた味わい深い。
「桔梗の宿」も色街での殺人事件。死体の手には桔梗の花が……というイメージが鮮やか。プロットの妙を堪能できる作品だが、こちらもまたラストでのどんでん返しが哀しみをいっそう深くする。
ハードボイルド風味の「桐の柩」は下っ端ヤクザによる語り。兄貴の命ずるままに殺人を犯すが、その兄貴の動機が秀逸。ヤクザのしのぎと奇妙な三角関係を織り交ぜ、独特の世界を構築しているのも素晴らしい。
「白蓮の寺」はトリッキーという意味だけなら本書中でもトップクラス。語り手の少年時の記憶だけを拠りどころとして、なぜこれだけの驚くべき真相に持っていくことができるのか。物語の重ね方が鮮やかすぎる。もちろんトリッキーなだけではなくて、その隠された動機が非常に心を揺さぶるのである。
表題作の「戻り川心中も凝りに凝っている。二度の心中事件を起こし、最終的には自害した近代の天才歌人・苑田岳葉。彼の生涯を小説にしようとした語り手は、苑田岳葉の残した歌、そして関係者らへの聞き込みで、苑田岳葉の心中事件と自殺の真相に気づいてゆく……。
その昔、木々高太郎と甲賀三郎の間で勃発した探偵小説芸術論争というものがあったが、当時、連城三紀彦がいれば、そんな論争などほぼ無意味だったような気がする。それぐらい本書は文芸とミステリの垣根をやすやすと越えた大傑作なのである。未読の方はぜひ。
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フォローありがとうございます。
そうですね、「夜の自画像」はすっかり忘れていました。せっかく『幻影城の時代 完全版』も買ってるというのに。
これに「能師の妻」が加わるとコンプリートですか。この際だから出版芸術社か論創社あたりで〈花葬〉全集でもだしてくれるといいのですが。いや、むしろ、今なら連城三紀彦全集になるのでしょうか。