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連城三紀彦『宵待草夜情』(ハルキ文庫)
連城三紀彦の短編集『宵待草夜情』を読む。収録作は以下のとおり。
「能師の妻」
「野辺の露」
「宵待草夜情」
「花虐の賦」
「未完の盛装」

収録作のどれもが女性を主人公にし、その特殊な恋愛模様を著者ならではの美麗な文章でまとめた傑作短編集である。『戻り川心中』にほぼ匹敵する出来とみていいが、あちらほどのトリッキーさはなく、むしろ女たちの情念や生き様により深くアプローチした恰好か。
その情念の行きつく果てに悲劇が待ち構えていると予想するのは特に難しいことではないが、その悲劇に秘められた真実がこちらの予想を遙かに超えるものであることは『戻り川心中』と同様である。あちらほどのトリッキーさはないと書いたが、それは連城三紀彦クラスの話であって、一般的には十分トリッキーなので念のため。以下、感想。
「能師の妻」はいつぞやコメントでおっさん様に教えていただいたとおり、本来は〈花葬〉シリーズで発表してほしかった一篇。銀座で発掘された人骨から語り手が妄想を膨らませ、とある能師に後妻として嫁いだ女の半生と一家の悲劇を綴っていく。
女が能師の死後、流派が絶たれることのないよう繼子に演目をおしえてゆくが、その怖ろしいまでのしごきが徐々に愛憎の特殊な形、まあ要はSMなのだが(苦笑)、それに変容していく流れが見どころ。もちろんラストで待ち受ける悲劇の真相もまた圧巻である。
「野辺の露」は純情な青年とその義姉による道ならぬ愛の物語。女の純粋な愛に応えようとした青年は最後に身をひくが、ある悲劇をきっかけに、その裏に隠された女の企みと底知れぬ情念に気がつくのである。この後味の悪さは半端ではない。
表題作の「宵待草夜情」は本書の中ではやや異色作。ミステリとしての仕掛けはそれほど強くはないのだが、ヒロインと宵待草の儚いイメージが見事にオーバーラップすること、青年の成長物語を絡ませたこと、珍しく清々しいラストで締めていることなどが相まって、珍しく希望に満ちた一篇である。
「花虐の賦」は演劇の主宰の自殺、そして看板女優の後追い自殺という、扇情的な事件を扱う。女優は愚直なまでに主宰に尽くし、主宰もその女性の献身ぶりに満足している。そして二人の関係を描いたと思われる新作が大評判を呼んだ絶頂のさなか、なぜか主宰が自殺する。真相と二人の関係を鮮やかなぐらいひっくり返してみせる逆転の構図が素晴らしい。
ラストを飾る「未完の盛装」は比較的ミステリ風味を強く打ち出した作品。長めの短編ながらけっこうな詰め込み方で、プロットが秀逸。
ミステリ的興味と文学的興味の双方を同時に高いレベルで満たすという、著者最大の特徴は微塵も失われておらず、収録作すべてが佳作といっていいだろう。強いていえば動機の意外性で「花虐の賦」を推すが、究極の愛(と書くと安っぽいけれど)を裏表で描いたような「能師の妻」「宵待草夜情」も好み。
連城ファンやミステリファンだけでなく、広くオススメできる一冊である。
「能師の妻」
「野辺の露」
「宵待草夜情」
「花虐の賦」
「未完の盛装」

収録作のどれもが女性を主人公にし、その特殊な恋愛模様を著者ならではの美麗な文章でまとめた傑作短編集である。『戻り川心中』にほぼ匹敵する出来とみていいが、あちらほどのトリッキーさはなく、むしろ女たちの情念や生き様により深くアプローチした恰好か。
その情念の行きつく果てに悲劇が待ち構えていると予想するのは特に難しいことではないが、その悲劇に秘められた真実がこちらの予想を遙かに超えるものであることは『戻り川心中』と同様である。あちらほどのトリッキーさはないと書いたが、それは連城三紀彦クラスの話であって、一般的には十分トリッキーなので念のため。以下、感想。
「能師の妻」はいつぞやコメントでおっさん様に教えていただいたとおり、本来は〈花葬〉シリーズで発表してほしかった一篇。銀座で発掘された人骨から語り手が妄想を膨らませ、とある能師に後妻として嫁いだ女の半生と一家の悲劇を綴っていく。
女が能師の死後、流派が絶たれることのないよう繼子に演目をおしえてゆくが、その怖ろしいまでのしごきが徐々に愛憎の特殊な形、まあ要はSMなのだが(苦笑)、それに変容していく流れが見どころ。もちろんラストで待ち受ける悲劇の真相もまた圧巻である。
「野辺の露」は純情な青年とその義姉による道ならぬ愛の物語。女の純粋な愛に応えようとした青年は最後に身をひくが、ある悲劇をきっかけに、その裏に隠された女の企みと底知れぬ情念に気がつくのである。この後味の悪さは半端ではない。
表題作の「宵待草夜情」は本書の中ではやや異色作。ミステリとしての仕掛けはそれほど強くはないのだが、ヒロインと宵待草の儚いイメージが見事にオーバーラップすること、青年の成長物語を絡ませたこと、珍しく清々しいラストで締めていることなどが相まって、珍しく希望に満ちた一篇である。
「花虐の賦」は演劇の主宰の自殺、そして看板女優の後追い自殺という、扇情的な事件を扱う。女優は愚直なまでに主宰に尽くし、主宰もその女性の献身ぶりに満足している。そして二人の関係を描いたと思われる新作が大評判を呼んだ絶頂のさなか、なぜか主宰が自殺する。真相と二人の関係を鮮やかなぐらいひっくり返してみせる逆転の構図が素晴らしい。
ラストを飾る「未完の盛装」は比較的ミステリ風味を強く打ち出した作品。長めの短編ながらけっこうな詰め込み方で、プロットが秀逸。
ミステリ的興味と文学的興味の双方を同時に高いレベルで満たすという、著者最大の特徴は微塵も失われておらず、収録作すべてが佳作といっていいだろう。強いていえば動機の意外性で「花虐の賦」を推すが、究極の愛(と書くと安っぽいけれど)を裏表で描いたような「能師の妻」「宵待草夜情」も好み。
連城ファンやミステリファンだけでなく、広くオススメできる一冊である。
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