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ジョン・ブラックバーン『刈りたての干草の香り』(論創海外ミステリ)
先月読んだ『闇に葬れ』で、あらためてその実力と魅力を再認識したのがジョン・ブラックバーン。モンスターパニックをはじめとした題材の面白さやストーリー展開もいいのだが、最大の目ウロコ的重要ポイントは、ホラーやSF、本格ミステリなどの複数ジャンルを(融合ではなく)混合させたスタイルという部分であった。
とはいえその題材やスタイルを面白がる物好きが果たしてどこまでいるのかという話である。一般的なミステリファンにアピールできる作家なのかと訊かれても、若干言葉に詰まる程度には好き嫌いの出る作家であることは間違いない。幸いにもすでに論創海外ミステリからは三作が訳出されているが、しばらく間が空いているので、これっきりの可能性も高そうだ。管理人としてはせいぜい普及に努めるべく、感想を上げることにしよう。
そんなわけで本日の読了本はジョン・ブラックバーンの『刈りたての干草の香り』。
ソ連のある村が軍隊によって焼き払われ、住民は全員収容所に入れられたという情報が流れた。英国外務省情報局長のカーク将軍は事実の解明に乗り出し、ある研究所の若き科学者を呼び出す。
一方、ソ連から急遽、国外退出を命じられたイギリスの貨物船は軍艦と接触して沈没。かろうじて沿岸に上陸した船員たちは、そこで奇怪な状況に遭遇する……。

本作はブラックバーンのデビュー作なのだが、既にホラーミステリとして十分な完成度に達しているのが素晴らしい。いや、キングなどの傑作と比べると全然小粒だし、書き込みも薄く、そりゃ確かに分は悪い。
ただし、エッセンス、特にモンスターパニックとか怪獣小説などといったジャンルにおけるツボは完璧に押さえており、その点はまったく遜色がない。
加えてストーリーの展開が見事。それほどボリュームもないこの小説でここまで内容を膨らませ、きっちりまとめあげる手腕はもっと評価されるべきだろう。以前にTwitterで『ウルトラQ』や「コルチャック」が好きな人ならおすすめみたいなことを呟いたのだが、正直、ストーリーとしての面白さはそれ以上で、むしろ比べるべきはB級の傑作モンスターパニック映画あたりだろう。実際、本作も映画化するとなれば、よけいな脚色は不要なぐらい展開が見事なのである。
本作で主人公格といえるのは、事件究明を依頼された若い科学者とその妻だ(シリーズキャラクターとしてはカーク将軍だが)。彼らが政府に出動を要請されるくだりを中心としつつ、ソ連で奇怪な事態に直面する船員たち、そして事件の原因となった過去の出来事、やがて覚醒することになるであろう被害者の様子、これらが渾然一体となって進む前半は圧巻の一語である。
そのときどきで展開されるエピソードによって、本格ミステリっぽくなったり、スパイ小説のようになったり、ホラーのようななったりするのももはやお馴染み。普通ならバランスの悪さが気になるところだが、おかしなものでブラックバーンの場合、次はどうくるのかという趣向への興味が優先する。もちろんファンゆえの贔屓目ではあるが。
強いてマイナス部分を挙げるなら、中盤のSF的な解釈が早めに出ることでモンスターパニック小説としての魅力がやや失われてしまうことだが、この点もラストでの盛り上がりがあるので、まあチャラということでよしとしますか。
とはいえその題材やスタイルを面白がる物好きが果たしてどこまでいるのかという話である。一般的なミステリファンにアピールできる作家なのかと訊かれても、若干言葉に詰まる程度には好き嫌いの出る作家であることは間違いない。幸いにもすでに論創海外ミステリからは三作が訳出されているが、しばらく間が空いているので、これっきりの可能性も高そうだ。管理人としてはせいぜい普及に努めるべく、感想を上げることにしよう。
そんなわけで本日の読了本はジョン・ブラックバーンの『刈りたての干草の香り』。
ソ連のある村が軍隊によって焼き払われ、住民は全員収容所に入れられたという情報が流れた。英国外務省情報局長のカーク将軍は事実の解明に乗り出し、ある研究所の若き科学者を呼び出す。
一方、ソ連から急遽、国外退出を命じられたイギリスの貨物船は軍艦と接触して沈没。かろうじて沿岸に上陸した船員たちは、そこで奇怪な状況に遭遇する……。

本作はブラックバーンのデビュー作なのだが、既にホラーミステリとして十分な完成度に達しているのが素晴らしい。いや、キングなどの傑作と比べると全然小粒だし、書き込みも薄く、そりゃ確かに分は悪い。
ただし、エッセンス、特にモンスターパニックとか怪獣小説などといったジャンルにおけるツボは完璧に押さえており、その点はまったく遜色がない。
加えてストーリーの展開が見事。それほどボリュームもないこの小説でここまで内容を膨らませ、きっちりまとめあげる手腕はもっと評価されるべきだろう。以前にTwitterで『ウルトラQ』や「コルチャック」が好きな人ならおすすめみたいなことを呟いたのだが、正直、ストーリーとしての面白さはそれ以上で、むしろ比べるべきはB級の傑作モンスターパニック映画あたりだろう。実際、本作も映画化するとなれば、よけいな脚色は不要なぐらい展開が見事なのである。
本作で主人公格といえるのは、事件究明を依頼された若い科学者とその妻だ(シリーズキャラクターとしてはカーク将軍だが)。彼らが政府に出動を要請されるくだりを中心としつつ、ソ連で奇怪な事態に直面する船員たち、そして事件の原因となった過去の出来事、やがて覚醒することになるであろう被害者の様子、これらが渾然一体となって進む前半は圧巻の一語である。
そのときどきで展開されるエピソードによって、本格ミステリっぽくなったり、スパイ小説のようになったり、ホラーのようななったりするのももはやお馴染み。普通ならバランスの悪さが気になるところだが、おかしなものでブラックバーンの場合、次はどうくるのかという趣向への興味が優先する。もちろんファンゆえの贔屓目ではあるが。
強いてマイナス部分を挙げるなら、中盤のSF的な解釈が早めに出ることでモンスターパニック小説としての魅力がやや失われてしまうことだが、この点もラストでの盛り上がりがあるので、まあチャラということでよしとしますか。
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Comments
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おはようございます。
sugata様のブログを拝見すると、ご馳走を前にした子供のように、あぁこれも読みたい、これも面白そうと悩ましい事になります。今回も、コルチャックなんて懐かしい名前がありますが、遥か昔、テレビシリーズを楽しんだ者としてはsugata様のさりげない技に参りました!となるのでございます。
Posted at 10:00 on 03 21, 2014 by 杣人・somabito
杣人・somabitoさん
いい年をしてモンスターや怪獣が登場する映画や小説に目がありません。それにしても杣人・somabitoさんがコルチャックをご覧になっていたとはちょっと意外でした。ハヤカワ文庫で原作が出ているので、そのうち感想をアップできればと思います。
Posted at 21:42 on 03 21, 2014 by sugata