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アンナ・キャサリン・グリーン『霧の中の館』(論創海外ミステリ)
論創海外ミステリからアンナ・キャサリン・グリーンの短編集『霧の中の館』を読む。まずは収録作から。
Midnight in Beauchamp Row「深夜、ビーチャム通りにて」
The House in the Mist「霧の中の館」
The Staircase at the Heart's Delight「ハートデライト館の階段」
Missing: Page Thirteen「消え失せたページ13」
Violet's Own「バイオレット自身の事件」

アンナ・キャサリン・グリーンといえば、世界で初めてミステリを書いた女性とされている作家だ(今では異説もあるらしいが)。ミステリの入門書やガイドブックなどでは、たいてい代表作『リーヴェンワース事件』と合わせて紹介されているから、名前だけはけっこう知られていると思うが、その作品を読んだことのある人が果たしてどれだけいることか。
そもそもガイドブックでも歴史的価値ぐらいしかないような感じで書いてあるものがほとんどで、代表作『リーヴェンワース事件』にしても、東都書房の「世界推理小説大系」に収録されたっきりで、読めない状態が五十年ほど続いているわけだから、そりゃあ無理もない話である。
そんな状況にあって、この度、論創海外ミステリからアンナ・キャサリン・グリーンの短編集『霧の中の館』が出たのである。
ミステリにおけるクラシックブーム、復刻ブームとはいえ、そんな物好きなマニアの数などたかが知れているし、そもそもブームは本格を中心としたムーブメントだ。そこへ酔狂にもアンナ・キャサリン・グリーンである。こんなものを商業出版で出してしまうというこの暴挙に、まずは盛大なる拍手を送りたい。
ただし、ブームの延長線上とはいえ、論創社もただウケ狙いや珍しさだけで本を出したわけでもあるまい。今でこそ歴史的価値うんぬんといった文脈でしか語られないが、当時の著者はばりばりの人気作家だったというし、それを裏付けるように著作数も多い。しかも短編集のひとつは「クイーンの定員」にも選ばれているのである。
そう、案外歴史的な価値だけに留まらない可能性もないわけではないのだ。
そんなこんなで微かな期待を込めつつ、『霧の中の館』を読み終えたのだが、果たしてその真価は?
結論から言うと、いやいや意外と悪くないんではないか。正直、最低レベルのつまらなさも覚悟していただけに、このレベルなら全然OKである。
特に最初の二編、「深夜、ビーチャム通りで」と「霧の中の館」はいい。
「深夜、ビーチャム通りで」はヒロインの行動に物足りなさを感じつつも、二人の侵入者という着想、そしてラストのインパクトが光る。
「霧の中の館」は館ものを彷彿とさせるような設定があって、実はグリーンがこのジャンルの先駆者だったかと思わせておきつつ、これまた衝撃的なラストが待ち受ける作品だ。
基本はサスペンスを基調とした物語なので、トリックとか謎解きに期待してはいけないし、キャラクターの造型がステロタイプ過ぎてちょっとアレなところはあるけれど、ストーリーテラーとしての実力はやはり侮れない。盛り上げ方が達者というか、プロットやストーリー作りにおいてはかなり巧みな印象である。
残りの三編はちょっと落ちるが、お嬢様をシリーズ探偵にしたバイオレット・ストレンジもの「消え失せたページ13」と「バイオレット自身の事件」は、キャラクターの設定という点で普遍的な魅力を感じさせる。読者のニーズを的確に掴んでいるというか、ベストセラー作家の底力みたいなものが感じられて興味深い。
とりあえず本書は予想以上の収穫といっていいだろう。もちろん歴史的意義を踏まえての話ではあるが(笑)。
できればこの勢いでもって、論創社には『リーヴェンワース事件』も新訳で出してもらいたいものだが、ううん、やはり難しいだろうなぁ。
Midnight in Beauchamp Row「深夜、ビーチャム通りにて」
The House in the Mist「霧の中の館」
The Staircase at the Heart's Delight「ハートデライト館の階段」
Missing: Page Thirteen「消え失せたページ13」
Violet's Own「バイオレット自身の事件」

アンナ・キャサリン・グリーンといえば、世界で初めてミステリを書いた女性とされている作家だ(今では異説もあるらしいが)。ミステリの入門書やガイドブックなどでは、たいてい代表作『リーヴェンワース事件』と合わせて紹介されているから、名前だけはけっこう知られていると思うが、その作品を読んだことのある人が果たしてどれだけいることか。
そもそもガイドブックでも歴史的価値ぐらいしかないような感じで書いてあるものがほとんどで、代表作『リーヴェンワース事件』にしても、東都書房の「世界推理小説大系」に収録されたっきりで、読めない状態が五十年ほど続いているわけだから、そりゃあ無理もない話である。
そんな状況にあって、この度、論創海外ミステリからアンナ・キャサリン・グリーンの短編集『霧の中の館』が出たのである。
ミステリにおけるクラシックブーム、復刻ブームとはいえ、そんな物好きなマニアの数などたかが知れているし、そもそもブームは本格を中心としたムーブメントだ。そこへ酔狂にもアンナ・キャサリン・グリーンである。こんなものを商業出版で出してしまうというこの暴挙に、まずは盛大なる拍手を送りたい。
ただし、ブームの延長線上とはいえ、論創社もただウケ狙いや珍しさだけで本を出したわけでもあるまい。今でこそ歴史的価値うんぬんといった文脈でしか語られないが、当時の著者はばりばりの人気作家だったというし、それを裏付けるように著作数も多い。しかも短編集のひとつは「クイーンの定員」にも選ばれているのである。
そう、案外歴史的な価値だけに留まらない可能性もないわけではないのだ。
そんなこんなで微かな期待を込めつつ、『霧の中の館』を読み終えたのだが、果たしてその真価は?
結論から言うと、いやいや意外と悪くないんではないか。正直、最低レベルのつまらなさも覚悟していただけに、このレベルなら全然OKである。
特に最初の二編、「深夜、ビーチャム通りで」と「霧の中の館」はいい。
「深夜、ビーチャム通りで」はヒロインの行動に物足りなさを感じつつも、二人の侵入者という着想、そしてラストのインパクトが光る。
「霧の中の館」は館ものを彷彿とさせるような設定があって、実はグリーンがこのジャンルの先駆者だったかと思わせておきつつ、これまた衝撃的なラストが待ち受ける作品だ。
基本はサスペンスを基調とした物語なので、トリックとか謎解きに期待してはいけないし、キャラクターの造型がステロタイプ過ぎてちょっとアレなところはあるけれど、ストーリーテラーとしての実力はやはり侮れない。盛り上げ方が達者というか、プロットやストーリー作りにおいてはかなり巧みな印象である。
残りの三編はちょっと落ちるが、お嬢様をシリーズ探偵にしたバイオレット・ストレンジもの「消え失せたページ13」と「バイオレット自身の事件」は、キャラクターの設定という点で普遍的な魅力を感じさせる。読者のニーズを的確に掴んでいるというか、ベストセラー作家の底力みたいなものが感じられて興味深い。
とりあえず本書は予想以上の収穫といっていいだろう。もちろん歴史的意義を踏まえての話ではあるが(笑)。
できればこの勢いでもって、論創社には『リーヴェンワース事件』も新訳で出してもらいたいものだが、ううん、やはり難しいだろうなぁ。