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 マイクル・コナリーの『ナイン・ドラゴンズ』読了。
 南L.A.で発生した中国人店主の殺人事件。背後に中国系犯罪組織"三合会"の存在を突きとめるが、容疑者を捕らえたロス市警刑事ボッシュのもとには、香港にいる娘の監禁されている画像が送られてきた。娘を取り戻すべく、ボッシュはただちに香港へ向かった……というのが上巻の主な粗筋。
 下巻では香港へ到着したボッシュが、前妻のエレノア、そして彼女の協力者サン・イーと共に娘の捜索を行うという展開を見せる。
 これがまた徹底したエンタメ路線であり、コナリー版『ダイハード』あるいは『24 TWENTY FOUR』とでもいった趣き。実はけっこう衝撃的なエピソードもあるので、今回は完全にこのスタイルで通すのかと思っていると、さすがはコナリー。終盤で事件の構図を一気にひっくり返す荒技をたたみかけてくる。

 ナイン・ドラゴンズ(下)

 いやいや実にお見事。
 単独のミステリ作品として評価するなら、問題なく傑作である。以前にも何回か書いたが、コナリーは『暗く聖なる夜』あたりからミステリを書くテクニックが急激にレベルアップしたように思う。プロットや仕掛けもとにかく練られているし、上手くなったという印象である。
 本作でも中国人店主の殺人事件、娘の誘拐事件それぞれをストレートに描いてもけっこう面白そうなのだが、まずはそれぞれに仕掛けを施し、なおかつそれを絡め、加えてボッシュと娘や前妻、同僚らとのドラマにも膨らみを持たせるという結構。一見すると中国のギャング組織から娘を取り返すというアクション小説を、それはそれとして活かしつつも、最終的な着地点をまったく予想外なところで準備する鮮やかさである。
 正直、ミステリとしてこれ以上何を求めるのか、というレベルにまできているのではないか。それぐらい素晴らしい。

 ただ、シリーズ最初期からのファンからすると、初期の苦悩するボッシュ、怒れるボッシュ、内省的なボッシュだからこそ心打たれたという側面は紛れもなくある。
 そこを抜けた先に現在のボッシュがあるのだが、キャラクター像の変化については人間的成長や年齢が上がってきたことなどもあるからいいとして、気になるのはシリーズとしての興味のポイントまで変化するところだ。
 初期の作品においては、ボッシュという特異な主人公だからこそ成立している内容が主で、そこにハードボイルドや警察小説としての面白みが集約されていた。しかし最近の作品では特別、ジャンル的な重きは置かれていないように見受けられる。むしろミッキー・ハラーやレイチェル・ウォリングなど別シリーズの主人公を登場させ、コナリーランドとでもいうような全方位的エンターテインメント路線に向かっているようだ(本作でもハラーがおいしい形で登場している)。
 その結果として、例えば本作ではボッシュと娘など主要人物との関係がいくつかクローズアップされてはいるのだが、娯楽要素が強すぎるため、人間ドラマがそれほど心に響かない。ミステリだから娯楽要素が強いのは当然なのだが、本来ボッシュものを読んできたファンが求めているのは、おそらくそこではないはずだ。

 まあ、そうはいってもシリーズもこれだけ長くなると、この程度の変化は当たり前なのかもしれない。個人的にはそういうのは別シリーズでチャレンジしてもらいたいところだが、ミステリとしてのレベルアップを考えればむしろこれは喜ぶべきことなのだろう。もちろんコナリーがこのまま単なるエンタメ路線にひた走るとも思えないし、今後の展開にもまだまだ期待したいところである。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌





Ksbcさん

もう十分すぎるくらい面白いのですが、正直言うとそれは別主人公の単発作品とかでやってもらいたいですね。本作はボッシュが活きる設定でないというか、ボッシュでなくてもかまわないお話なんですよね。
【2014/06/08 23:14】 URL | sugata #8Y4d93Uo[ 編集]

今晩は。
香港でのアクションには意表を突かれましたが、そこはコナリー外しませんね。
ただ、こちらとしてはそこをボッシュに求めてないというか…。
確かに、はじめの頃のアウトサイダー的な魅力が薄れてきているのが物足りなさの原因なのでしょうかね。
"リンカーン弁護士"が映画化されたので、そのへんが影響しているのでしょうか?
【2014/06/08 22:36】 URL | Ksbc #-[ 編集]















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