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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


アール・ノーマン『ロッポンギで殺されて』(論創海外ミステリ)

 最近ますます元気になってきた感のある論創社。論創ミステリ叢書と論創海外ミステリ、合わせて毎月三冊も出されては読む方が追いつかず、積ん読がたまる一方である。いや、だからといって止めてもらっては困るわけで、そんなマニアの泣き言は気にせず、論創社にはぜひともこのまま突っ走っていただきたい。

 ところで論創海外ミステリは一時期の本格路線が少しトーンダウンし、近頃はまた妙なものを出し始めたので要注目である。幻の傑作とかではなく、なぜこれをわざわざ出す気になったのかという微妙なラインナップなのだ。
 少し前に読んだA・K・グリーンもごくごく一部の海外ミステリマニアこそ興味はもつだろうが、とてもビジネスとして成立するとは思えず、これをしれっと出版できる不思議。ただ、A・K・グリーンなどはミステリ的には全然まともな部類であり、本日の読了本、アール・ノーマンの『ロッポンギで殺されて』あたりは、よく出版する気になったなぁというほかない。
 一応、過去に都筑道夫のエッセイなどで紹介されてはいたが、とりわけ幻の作品というわけでもなく、長らく出版が待たれた一作というわけでもない。基本的には珍品の類である。出したくても出せなかったのではなく、そもそも出す意味がなかったというのが妥当なところだろう。

 まあ、そうはいってもこれは推論に過ぎない。実際に読まずして出す意味がなどと書いていては、ただの失礼な奴か無責任野郎である。まずは読め、ということで本日の感想。

 元米軍GIのバーンズ・バニオンは日本で私立探偵を営む男。持ち前の度胸と鍛えた空手で、今では東京の暗黒街でも少しは知られた存在だ。
 そんな彼に新聞発行人のラケッツから奇妙な依頼があった。「発覚することなく、なんの危険も冒すことなく、犯罪を達成する方法をお教えします」という新聞広告を掲載するよう脅迫されたというのである。ラケッツの依頼は、バニオンがその新聞広告に応じ、真相を調査してくれというものだった。あまりに胡散臭い話だが、金に困っているバニオンは仕方なく引き受けることにする。だがその裏には恐るべき陰謀が……。

 ロッポンギで殺されて

 著者のアール・ノーマンは第二次大戦後、在日米軍基地でエンターテインメント関係のコンサルティングを務めた人物で、日本には三十年ほど暮らしていた経歴を持つ。その本業の合間に手を染めたのが、日本で活躍する私立探偵バニオンを主人公にした軽ハードボイルドだった。
 もちろん息抜きのための軽い読み物にすぎないが、裏テーマとしては米兵のための東京ガイドの役目もあったという。
 したがって基本的には軽ハードボイルドもしくは東京ガイドブックという面から語るのが筋というものだが、解説にもあるように、実は本書はもうひとつの観点から語ることが可能なのだ。すなわちバカミス(好きな言葉じゃないけれど)である。

 早合点する人がいるといけないので先に書いておくと、本書は日本を舞台にしたミステリにありがちな、むちゃくちゃな日本観で書かれた小説ではない。まあ、一部そういう側面もないではないが、むしろその類の中ではけっこうまともな方である。
 本書がバカミスと呼ばれる所以は、登場人物とストーリーの破天荒さ、さらには事件の核心となる陰謀の突拍子のなさにある。

 主人公とストーリーの破天荒さは読めばすぐにわかる。基本スタイルはカーター・ブラウン辺りを彷彿とさせる軽ハードボイルドなのだが、それらにつきものの要素が極端に劇画化されている。
 例えばストーリーで言うと、ほぼ数ページで次から次へと目まぐるしく展開が変わる。確かにスピード感はすごいのだが、冷静に構成を見ると、主人公が男と会う→格闘→主人公が女と会う→濡れ場→主人公が男と会う→格闘→主人公が女と会う(以下略)……ほぼこの繰り返しと思ってもらえれば間違いない。しかも、格闘シーンにしても濡れ場にしても、著者のサービス精神がありすぎてどちらも非常に濃厚(笑)。
 要はいちいち過剰すぎるのである。著者のサービス精神が旺盛すぎて、完全に一線を越えてしまっているレベル。

 あまりの弾けっぷりに正直、陰謀がどういうものかどうでもよくなってくる始末である。それでも「発覚することなく、なんの危険も冒すことなく、犯罪を達成する方法をお教えします」という導入がやはり魅力的なので、とりあえずそちらへの興味と、加えて上に書いたような読者サービスによっておもてなしされているので、けっこう楽しみながら読めるのは否めない。
 肝心の陰謀の中身が「そりゃあない」と言わざるを得ない内容ではあったが、少なくともまったく予想できない方向性だったので、そういう意味では愉快である。

 日本通の外国人が書いた軽ハードボイルドというアドバンテージがあるので、いわゆる軽ハードボイルドのノリが好きな人なら、本書は一度は手に取ってみる価値はある。ミステリ好きの知人に話せるネタとしてもかなり優秀である。
 そういう楽しみを得たい人には間違いなく必読である。ただ、バカミスという味つけが濃すぎるので、手に取るのは一度で十分かもしれない。


Comments

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ポール・ブリッツさん

記事でも書いたように、話のネタとしてはともかく、自分の糧になるとか文学的価値とかは一切ありませんので、自己責任でお願いします(笑)。正直、こういうものをハードカバーで出してはいかんと思いましたよ(笑)。

Posted at 23:55 on 06 26, 2014  by sugata

Edit

どうしようすごく面白そう(笑)

でも買ったら絶対後悔しそう(笑)

Posted at 23:32 on 06 26, 2014  by ポール・ブリッツ

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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