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フィリップ・マクドナルド『狂った殺人』(論創海外ミステリ)
クラシックミステリの復刻ブームで、それまで全貌が掴めなかった作家の紹介がずいぶん進められてきたけれど、昔からの知名度の割にはもうひとつパッとしない作家がいる。まあ、あくまで個人的な印象になるが、フィリップ・マクドナルドがその一人。
これまで読んだ長篇には『鑢』『ライノクス殺人事件』『迷路』『Xに対する逮捕状』『エイドリアン・メッセンジャーのリスト』があるが、総じて狙いは面白いものの、それがなかなか結果に結びつかない。それどころか腰砕けに終わる作品も少なくない(なお、『フライアーズ・パードン館の謎』と『殺人鬼対皇帝』は積ん読中)。
つまらないわけではなく、過度な期待さえしなければその技巧を十分楽しめる作品群である。ただし、これだという決定的なホームラン級の作品がないことや、意外に完成度が低かったりで、黄金時代の一線級の作家に比べるとどうしても一枚落ちる感じは否めない。そのせいか、これまでもぼちぼちと紹介はされているのだが、いまひとつ世間の反応も煮え切らない感じである(苦笑)。
本日の読了本はそんなフィリップ・マクドナルドの『狂った殺人』。今までのイメージを覆せるかどうか、期待半分不安半分でとりかかったが……。
まずはストーリー。
英国の田園都市ホームデイルで一人の少年が殺害された。ほどなくして犯人と思われる人物から犯行声明が届く。警察を小馬鹿にしたその内容に関係者は苛立ちを隠せないが、やがて第二、第三の犯行が発生。スコットランドヤードから派遣されたパイク警視は犯人がホームデイルの住人だと考え、ある奇策を思いつくが……。

フィリップ・マクドナルドは初期こそ本格中心だったが、後期はサスペンス系を多く書くようになっていった。本作は1931年刊行なので、時期的には本格のタイミング。しかも無差別連続殺人のミッシング・リンクを扱っているのでかなり期待させるが、残念ながらアプローチは本格というよりサスペンスもしくは警察小説寄りである。
ただ謎解き要素は薄味ながら、住民の間に広がる恐怖、地元警察とパイクの微妙な関係性などが丹念に書き込まれ、リーダビリティはなかなか高い。
パイクが仕掛ける作戦もアイディアとしては悪くなく、今では似たようなトリックがいくつも思い浮かぶけれど、戦前にこの手を用いたのは素晴らしい。
しかしながら最後の最後でまさかの展開。いや、物語としてはちゃんと決着がついているのだけれども、動機について言及が一切ないという大どんでん返し。動機がないのではない。動機についての言及がないのである。ええと、これではミッシング・リンクの意味がないではないか。
まあ、作者本人はミッシング・リンクのつもりがなく、特殊な状況下でのサスペンスが書きたかった可能性もあるのだけれど、このやり場のないモヤモヤ感はどうしてくれる。そもそも子供を殺しておいて、それに対する説明もまったくないというのは、娯楽小説としてどうかと思う。
結論。傑作になりそこねた失敗作。
これまで読んだ長篇には『鑢』『ライノクス殺人事件』『迷路』『Xに対する逮捕状』『エイドリアン・メッセンジャーのリスト』があるが、総じて狙いは面白いものの、それがなかなか結果に結びつかない。それどころか腰砕けに終わる作品も少なくない(なお、『フライアーズ・パードン館の謎』と『殺人鬼対皇帝』は積ん読中)。
つまらないわけではなく、過度な期待さえしなければその技巧を十分楽しめる作品群である。ただし、これだという決定的なホームラン級の作品がないことや、意外に完成度が低かったりで、黄金時代の一線級の作家に比べるとどうしても一枚落ちる感じは否めない。そのせいか、これまでもぼちぼちと紹介はされているのだが、いまひとつ世間の反応も煮え切らない感じである(苦笑)。
本日の読了本はそんなフィリップ・マクドナルドの『狂った殺人』。今までのイメージを覆せるかどうか、期待半分不安半分でとりかかったが……。
まずはストーリー。
英国の田園都市ホームデイルで一人の少年が殺害された。ほどなくして犯人と思われる人物から犯行声明が届く。警察を小馬鹿にしたその内容に関係者は苛立ちを隠せないが、やがて第二、第三の犯行が発生。スコットランドヤードから派遣されたパイク警視は犯人がホームデイルの住人だと考え、ある奇策を思いつくが……。

フィリップ・マクドナルドは初期こそ本格中心だったが、後期はサスペンス系を多く書くようになっていった。本作は1931年刊行なので、時期的には本格のタイミング。しかも無差別連続殺人のミッシング・リンクを扱っているのでかなり期待させるが、残念ながらアプローチは本格というよりサスペンスもしくは警察小説寄りである。
ただ謎解き要素は薄味ながら、住民の間に広がる恐怖、地元警察とパイクの微妙な関係性などが丹念に書き込まれ、リーダビリティはなかなか高い。
パイクが仕掛ける作戦もアイディアとしては悪くなく、今では似たようなトリックがいくつも思い浮かぶけれど、戦前にこの手を用いたのは素晴らしい。
しかしながら最後の最後でまさかの展開。いや、物語としてはちゃんと決着がついているのだけれども、動機について言及が一切ないという大どんでん返し。動機がないのではない。動機についての言及がないのである。ええと、これではミッシング・リンクの意味がないではないか。
まあ、作者本人はミッシング・リンクのつもりがなく、特殊な状況下でのサスペンスが書きたかった可能性もあるのだけれど、このやり場のないモヤモヤ感はどうしてくれる。そもそも子供を殺しておいて、それに対する説明もまったくないというのは、娯楽小説としてどうかと思う。
結論。傑作になりそこねた失敗作。
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Comments
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フィリップ・マクドナルドってそんなに訳されてたんですねぇ。
と言いつつ調べたら『フライアーズ〜』、『鑢』、『ライノクス〜』、『Xに〜』は既読でした。読んだときはそれなりに面白かったはずなんですが、ほとんど忘却の彼方に…
『フライアーズ〜』だけはトリックがむっちゃインパクトあったので覚えてますが。
この『狂った殺人』も色々な意味で読んでみたくなりました(^^;
Posted at 19:30 on 07 21, 2014 by Sphere
Sphereさん
昔から幻の作家のイメージが強すぎますよね。だから出るとだいたい読むことは読むんですが、そんなに傑作というわけでもないので、また記憶が薄れて、いつのまにか幻の作家のイメージばかりが先行するという……フィリップ・マクドナルドってこれの繰り返しの感じがしませんか(笑)
『狂った殺人』はいろいろな意味でインパクト強い方だと思うので、一応読んでおいてもよろしいかと。
Posted at 21:12 on 07 21, 2014 by sugata