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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


トッド・ブラウニング『魔人ドラキュラ』

 『事件記者コルチャック』収録の「ラスヴェガスの吸血鬼」を読んだせいか、吸血鬼ものの映画を観たくなってDVDの『魔人ドラキュラ』を引っ張り出す。
 ブラム・ストーカーの原作を初めて映画化した作品で、1931年の公開。監督はトッド・ブラウニング。その後のホラー映画ブームを巻き起こした、数あるドラキュラ映画の元祖的作品でもある。

 魔人ドラキュラ

 映画がヒットした要因はいろいろあるが、最大の功績はやはり主演ドラキュラ伯爵を演じたベラ・ルゴシによるところが大きいだろう。
 東欧出身ということもあって訛りが強く、なかなか芽が出なかったベラ・ルゴシだが、ドラキュラがそもそも東欧はルーマニアの出。しかも本来は二枚目俳優ということで、ドラキュラは恰好のハマリ役であった。
 しかもただ演じるだけではなく、その後のドラキュラ像を決定的にしたのも彼のお手柄だ。オールバックの髪型に、全身黒づくめの礼装にマントというスタイルは、今ではすっかりドラキュラのイメージとしてお馴染みだが、これはベラ・ルゴシが作り上げたスタイルで、原作のむしろワイルドな雰囲気をスマートでセクシーなものにアレンジした功績は大きい。
 後のクリストファー・リーももちろんいいが、本作でのベラ・ルゴシは存在感が圧倒的で、これはもう彼のための映画といっていいのである。

 さて、物語に目を向けると、もともと舞台で使われた脚本をそのまま映画にも流用したらしく、どうしても性急な感じは否めない。
 原作があのとおり長大なものなので、いろいろと端折られるのは仕方ないが、場面によってはけっこう重要なことがセリフひとつで終わったり、伏線だろうと思っていたシーンやセリフが華麗にスルーされていたりと、時代を考えれば仕方ないかと思いつつも、やや納得はいかなかったりする。ドラキュラはミステリ同様お約束というかコードの多い物語で、それゆえに面白みが倍増するのだから、ここはきちんとやってほしかったところだ。
 特にラストシーンのヘルシンク教授の思わせぶりなセリフからエンドマークへという流れは最高である(苦笑)。

 その点、むしろ映像の方が時代を考慮してもなかなかの雰囲気を再現していて、まあ、これはモノクロだったり画質が悪いこともあるから、それが逆に粗を隠してくれている面もあるのだが、それでもドラキュラ城のシーンなどは外観、内部ともよくできたセットだなぁと感心せずにはいられない。
 舞台のセットが反映されているのかどうかはわからないが、少なくとも参考にはされているだろう。

 というわけで、いろいろと欠点もあるがホラー映画の重要な一ページである本作。ベラ・ルゴシの存在感も一見の価値はあるし、一度は観ておいて損はない。

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Comments

Edit

くさのまさん

>普段のもったいぶった余裕綽々の時とそうでない時(鏡付きの葉巻入れを叩き落とすシーン等)のギャップがなんとも好ましいです(笑)

そうそう! また、このときのマントを翻しながら顔を隠す動作が何とも可愛らしいというか(笑)。

それにしてもDVD-BOXで持っているとはさすがです。『魔人ドラキュラ レガシーBOX』、それとも柩型の赤緑コレクション? いや、フィギュア付きということですから、もしかして『モンスター レガシー DVD コレクション』?  ううむ、羨ましい!

Posted at 23:33 on 07 24, 2014  by sugata

Edit

私も好きな作品です。

 仰るとおり、この作品の魅力はベラ・ルゴシの存在とセットの雰囲気に尽きると思います。
 特にベラ・ルゴシは特に芝居が上手いとも思わないのですが、普段のもったいぶった余裕綽々の時とそうでない時(鏡付きの葉巻入れを叩き落とすシーン等)のギャップがなんとも好ましいです(笑)。
 昔々にフィギュア付きのDVDBOXを購入したものの、この一枚しか観ていないのは内緒です(笑)。

Posted at 22:11 on 07 24, 2014  by くさのま

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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