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クリスチアナ・ブランド『領主館の花嫁たち』(東京創元社)
クリスチアナ・ブランドの『領主館の花嫁たち』を読む。
著者が最後に残した長篇で、これがなんとゴシックロマン。しかもホラー仕立てである。正直あまり得意なジャンルではないのだが、あのブランドの作品であるからには、何かミステリ的な仕掛けもあるのではないかと期待半分不安半分で読み始める。
こんな話。
1840年英国。荘園を営むヒルボーン家で、当主の妻が若くして亡くなった。悲しみの底に沈む当主だが、その眼差しは妻の死だけではなく、残された双子の姉妹にも向けられていた。ヒルボーン家には四百年の長きにわたって続く呪いがあったのだ。
程なくしてヒルボーン家に姉妹の家庭教師が雇われた。テターマンというその女性は、癒しがたい瑕をもつ身であったが、双子の姉妹に接するうち、徐々に生きる希望を取り戻してゆく。しかし、館の呪いはそんな彼女たちを放っておかなかった。怪異は繰り返され、やがてテターマンと姉妹の運命を大きく翻弄してゆくことになる……。

ううむ、これはなかなか重苦しい物語である。ブランドはもともと暗いタッチのミステリが多いだけに、ゴシックロマンとの相性がけっこういいようだ。
もちろん上っ面の雰囲気だけではなく、美人の双子姉妹、若き家庭教師、怪異現象の起こる古い館など、ゴシックロマンならではといった要素をきちんと散りばめ、さらには心理描写もミステリ作品よりは多めにしている印象で、それが陰鬱な感じを強調して、なかなか堂に入ったものである。プロパーでないとはいえさすがはブランド。
しかもミステリ的要素はほぼ皆無とはいえ、後半の展開は物語なりのルールに則り、ゴーストたちとの対決をロジカルに展開するなど、けっこう根っこのところではミステリのスタイルが息づいているのも好印象。
というわけでトータルでは力作と言ってよいだろう。
ただ、個人的には少々きつい読書であった。これは純粋にお話しの感想になるのだが、双子姉妹の姉クリスティーンの境遇があまりにもきつい。
クリスティーンは愛ゆえに自己犠牲を伴ってでも周囲の人を救おうとするが、その頑なさゆえに身を滅ぼす。よく愛が深いほど憎しみもまた深くなるというが、クリスティーンにしてみれば、そういうのは最初から純粋な愛ではなかったといえるかもしれない。
ただ、クリスティーンにしてもそれが最良の道とは思っていないわけで、周囲がそれに甘えるところがなおのこと問題。そりゃ一応はクリスティーンを止めるけれども、ううむ、結局最後は折れるのがミエミエだしなぁ。で、最後にそれが思いもかけない形で返ってくるわけで、こういう意地の悪い展開はさすがにクリスチアナ・ブランドだ(苦笑)。
ブランドの巧さは満喫できるし、先に書いたように力作だとは思うが、堪え忍ぶ物語が苦手な人にはちょっと辛いかも。
著者が最後に残した長篇で、これがなんとゴシックロマン。しかもホラー仕立てである。正直あまり得意なジャンルではないのだが、あのブランドの作品であるからには、何かミステリ的な仕掛けもあるのではないかと期待半分不安半分で読み始める。
こんな話。
1840年英国。荘園を営むヒルボーン家で、当主の妻が若くして亡くなった。悲しみの底に沈む当主だが、その眼差しは妻の死だけではなく、残された双子の姉妹にも向けられていた。ヒルボーン家には四百年の長きにわたって続く呪いがあったのだ。
程なくしてヒルボーン家に姉妹の家庭教師が雇われた。テターマンというその女性は、癒しがたい瑕をもつ身であったが、双子の姉妹に接するうち、徐々に生きる希望を取り戻してゆく。しかし、館の呪いはそんな彼女たちを放っておかなかった。怪異は繰り返され、やがてテターマンと姉妹の運命を大きく翻弄してゆくことになる……。

ううむ、これはなかなか重苦しい物語である。ブランドはもともと暗いタッチのミステリが多いだけに、ゴシックロマンとの相性がけっこういいようだ。
もちろん上っ面の雰囲気だけではなく、美人の双子姉妹、若き家庭教師、怪異現象の起こる古い館など、ゴシックロマンならではといった要素をきちんと散りばめ、さらには心理描写もミステリ作品よりは多めにしている印象で、それが陰鬱な感じを強調して、なかなか堂に入ったものである。プロパーでないとはいえさすがはブランド。
しかもミステリ的要素はほぼ皆無とはいえ、後半の展開は物語なりのルールに則り、ゴーストたちとの対決をロジカルに展開するなど、けっこう根っこのところではミステリのスタイルが息づいているのも好印象。
というわけでトータルでは力作と言ってよいだろう。
ただ、個人的には少々きつい読書であった。これは純粋にお話しの感想になるのだが、双子姉妹の姉クリスティーンの境遇があまりにもきつい。
クリスティーンは愛ゆえに自己犠牲を伴ってでも周囲の人を救おうとするが、その頑なさゆえに身を滅ぼす。よく愛が深いほど憎しみもまた深くなるというが、クリスティーンにしてみれば、そういうのは最初から純粋な愛ではなかったといえるかもしれない。
ただ、クリスティーンにしてもそれが最良の道とは思っていないわけで、周囲がそれに甘えるところがなおのこと問題。そりゃ一応はクリスティーンを止めるけれども、ううむ、結局最後は折れるのがミエミエだしなぁ。で、最後にそれが思いもかけない形で返ってくるわけで、こういう意地の悪い展開はさすがにクリスチアナ・ブランドだ(苦笑)。
ブランドの巧さは満喫できるし、先に書いたように力作だとは思うが、堪え忍ぶ物語が苦手な人にはちょっと辛いかも。
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