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トーベ・ヤンソン『小さなトロールと大きな洪水』(講談社文庫)
日本では根強い人気のあるムーミンだが、今年は著者トーベ・ヤンソンが生誕百周年ということらしく、何やらムーミン関連のイベントが昨年あたりから一気に盛り上がっているようだ。
まあアニメは子供の頃に見ていたし、アニメと原作ではテイストがずいぶん違い、なかなか哲学的な味もあるということも知識としてはあった。以前からそこそこ興味はあったので、これはそろそろ読むしかあるまいと手に取った次第である。幸い、家にはムーミン物語全九巻のうち八巻までは揃えていたので(笑)、足りなかった第一巻の『小さなトロールと大きな洪水』を買い足して、ぼちぼち読み始めることにした。

『小さなトロールと大きな洪水』はムーミン物語の第一巻。主人公のムーミントロールがムーミンママと冬ごもりのための新しい家を見つけにいくという、いわばロードノベルである。
途中でスニフとの出会いがあったり、行方不明だったムーミンパパとの再会があったりして、最後にはムーミン谷に辿り着くというストーリー。
言ってみればその後の物語のプロローグ的な位置づけなのだが、この時点ではトーベ・ヤンソンはまだシリーズ化を考えておらず、ボリュームも非常に小さい。ムーミントロールやムーミンママの性格などもその後の作品とは若干異なっているようで、外伝的な位置づけとみることもできるだろう。
したがってムーミン原作初体験の身としては、本作をもってムーミンの本質を理解するにはやや無理もあるのだが、まあ、内容自体はなかなか面白く読めた。
本書が刊行されたのは1945年、着想を得たのが1939年ということで、これはまんま第二世界大戦の期間でもある。ヤンソンの母国フィンランドも戦火の影響は当然あったわけで、そのイメージが色濃く作品に反映されているのが興味深い。
何よりムーミントロールとムーミンママが自分たちの家を探しにいくというその設定。ムーミンパパがいないのも、次々と危険が降りかかるのも、すべては戦争を比喩したものであることは想像に難くない。そんな困難を乗り切って、ムーミンたちは安住の地を求める。
「わたしたちは旅をつづけなければなりません。ほんもののお日さまの光のもとで、自分たちで家をたてようと思っているのです」
ストレートなムーミンママのセリフが印象的である。
旅をするムーミンたち一行の構成が家族的なところも要注目。ムーミントロールとムーミンママ以外に、わがままばかり言う末っ子的な存在のスニフ、いるだけで皆を明るくしてくれる長女的なチューリッパ(途中で素敵な男子に見初められ旅を離れるところも暗示的だ)。
足りないのは正にムーミンパパだけなのだが、感動の再会をしても、なぜか一家の大黒柱としての存在にはあまり思えないのが困った(苦笑)。暗い現実を反映した(と思われる)この物語のなかで、夢想家で冒険家というパパのキャラクターが、妙に浮いていると感じたせいかも。この違和感の正体は、おそらく今後の作品を読むうちに解消されると思いたい。
ともあれラストは離ればなれになった家族が再会し、しかも素敵な家と安住の地も同時に見つかるわけで、このあたりは終戦を迎えた著者のストレートな喜びが反映されている。
読んでいるこちらも思わず嬉しくなってくる、そんな気持ちにさせるいい物語である。
まあアニメは子供の頃に見ていたし、アニメと原作ではテイストがずいぶん違い、なかなか哲学的な味もあるということも知識としてはあった。以前からそこそこ興味はあったので、これはそろそろ読むしかあるまいと手に取った次第である。幸い、家にはムーミン物語全九巻のうち八巻までは揃えていたので(笑)、足りなかった第一巻の『小さなトロールと大きな洪水』を買い足して、ぼちぼち読み始めることにした。

『小さなトロールと大きな洪水』はムーミン物語の第一巻。主人公のムーミントロールがムーミンママと冬ごもりのための新しい家を見つけにいくという、いわばロードノベルである。
途中でスニフとの出会いがあったり、行方不明だったムーミンパパとの再会があったりして、最後にはムーミン谷に辿り着くというストーリー。
言ってみればその後の物語のプロローグ的な位置づけなのだが、この時点ではトーベ・ヤンソンはまだシリーズ化を考えておらず、ボリュームも非常に小さい。ムーミントロールやムーミンママの性格などもその後の作品とは若干異なっているようで、外伝的な位置づけとみることもできるだろう。
したがってムーミン原作初体験の身としては、本作をもってムーミンの本質を理解するにはやや無理もあるのだが、まあ、内容自体はなかなか面白く読めた。
本書が刊行されたのは1945年、着想を得たのが1939年ということで、これはまんま第二世界大戦の期間でもある。ヤンソンの母国フィンランドも戦火の影響は当然あったわけで、そのイメージが色濃く作品に反映されているのが興味深い。
何よりムーミントロールとムーミンママが自分たちの家を探しにいくというその設定。ムーミンパパがいないのも、次々と危険が降りかかるのも、すべては戦争を比喩したものであることは想像に難くない。そんな困難を乗り切って、ムーミンたちは安住の地を求める。
「わたしたちは旅をつづけなければなりません。ほんもののお日さまの光のもとで、自分たちで家をたてようと思っているのです」
ストレートなムーミンママのセリフが印象的である。
旅をするムーミンたち一行の構成が家族的なところも要注目。ムーミントロールとムーミンママ以外に、わがままばかり言う末っ子的な存在のスニフ、いるだけで皆を明るくしてくれる長女的なチューリッパ(途中で素敵な男子に見初められ旅を離れるところも暗示的だ)。
足りないのは正にムーミンパパだけなのだが、感動の再会をしても、なぜか一家の大黒柱としての存在にはあまり思えないのが困った(苦笑)。暗い現実を反映した(と思われる)この物語のなかで、夢想家で冒険家というパパのキャラクターが、妙に浮いていると感じたせいかも。この違和感の正体は、おそらく今後の作品を読むうちに解消されると思いたい。
ともあれラストは離ればなれになった家族が再会し、しかも素敵な家と安住の地も同時に見つかるわけで、このあたりは終戦を迎えた著者のストレートな喜びが反映されている。
読んでいるこちらも思わず嬉しくなってくる、そんな気持ちにさせるいい物語である。
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Comments
Edit
そうなんですね、ムーミンの元のお話は…。
とはいうものの私の田舎では、アニメのムーミンは放送されていなかったので、全くムーミンについての知識がありません(笑)。
ムーミンって一体何なんですかね、ムーミンというイキモノだと聞いていますが。
Posted at 00:45 on 08 07, 2014 by Ksbc
Ksbcさん
そう、ムーミンは種族名なんですよ。だいたい、登場キャラクターの名前はほぼ種族名を元にしているので、けっこうややこしいです。主要キャラなのに、●●のおじょうさん、なんていう名前で通されたキャラクターもいて、あまりにもわかりにくいだろうということで、アニメでは便宜上、名前がつけられたキャラもいます。
Posted at 00:20 on 08 08, 2014 by sugata