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 引き続きシリーズ第二作『ムーミン谷の彗星』を読む。
 ムーミン谷の始まりを描いた『小さなトロールと大きな洪水』がプロローグ的な物語だとすれば、本書は実質的なシリーズ第一作。ムーミン谷でムーミン一家が暮らす、お馴染みの世界観はここからスタートする。

 ムーミン谷の彗星

 お馴染みの世界観とはいいながらも、本作のストーリーはのっけからイレギュラーっぽい。
 なんせムーミン谷の空高くに彗星が現れ、それが間もなく地上に激突するというのである。迫り来る地球最後の日。ムーミントロールとスニフはその秘密を調べるために、天文台をめざして冒険の旅に出る。
 もちろん彗星は最大の危機だが、他にも嵐や噴火、地割れ、いなごの大群などがムーミンたちの行く手を阻み、前作以上にハラハラドキドキの展開。まあ、そうはいいながら実際のところはマイペースで、もっと暢気な感じではあるのだが。
 ムーミントロールの親友となるスナフキンや彼女となるスノークのおじょうさんも本作で初登場し、旅の仲間が増えていく展開はファンならずともわくわくするところで、シリーズ中でも人気の高い理由がよくわかる。

 ただ、ハッピーエンドの物語ではあるけれど、前作同様、全体的には戦争の影響もまだまだ感じられる。ムーミンたちに襲いかかる恐怖はやはりヤンソン自身が抱えている恐怖でもある。本書が書かれた時点で第二次大戦自体は終わっていたが、まだ癒えていない心の傷や戦後の不便な生活、色濃く残る不安といったものは、世界観にしっかりと反映されているのだ。

 そんな不安な日々を吹き飛ばすのが、魅力的な登場キャラクターの数々といえるだろう。
 先に書いたとおり、地球の危機にあっても彼らはあくまでマイペース。力を合わせて頑張ろうとはするが、すぐに目先のことにとらわれる。そもそも皆が決して善人というわけではなく、むしろ人間の性質のだめな部分を誇張したような登場キャラクターがほとんどなのである。
 すねて不満ばかりこぼすスニフ、好奇心ばかりが先に立つムーミントロール、理屈ばかりのスノーク、やたらと切手に執着するヘムル、夢想家のムーミンパパなどなど。彼ら一人ひとりはとても冒険を乗り切れるような器ではないのだが(苦笑)、それでもいざというときには誰かが頑張り、誰かが勇気づけ、それでもダメなら笑いとばし、ときには現実逃避にも走る。
 でもそれでいいじゃん、というのが著者の基本的スタンスのように思える。ヤンソンはことさら人間賛歌を謳うのではなく、人のいいところも悪いところもひっくるめてお話にし、読者に気づかせてくれているのではないか。人間とはそもそもそういう存在なのだと。

 まだ二作しか読んでいないので、このあとの作品でまた受け止め方は変わるかもしれないが、とりあえずはこんなところで。

テーマ:児童文学 - ジャンル:本・雑誌




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