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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


E・C・R・ロラック『鐘楼の蝙蝠』(創元推理文庫)

 E・C・R・ロラックの『鐘楼の蝙蝠』を読む。
 クラシックミステリの復刻ブームとはいえ、まだまだ紹介が遅れている作家はいるわけで、たとえ本邦初訳が叶っても、その後鳴かず飛ばずの作家も多い(まあ、これは現代の作家でも同じか)。
 本日読んだロラックなどはまだいいほうだけれど、それでも国書刊行会の『ジョン・ブラウンの死体』、長崎出版の『死のチェックメイト』、そして創元推理文庫の『悪魔と警視庁』と『鐘楼の蝙蝠』まで、四冊でなんと足かけ十七年。ロラックは七十作あまりの著作があるから、このペースでは生きているうちに全作翻訳で読めるのはまず不可能だろう(笑)。
 結局は人気と売れ行き次第なのだろうが、個人的にはけっこう好きな作家なので、人気も評価も定着しないのは歯がゆいばかりだ。

 まあ、それはおいといて、とりあえずストーリー。
 劇作家のブルース・アトルトンは、ドブレットと名乗る男に付きまとわれていた。彼を心配した友人のロッキンガムは、新聞記者のグレンヴィルに調査を依頼する。グレンヴィルはドブレットの住みかを突き止めるが、ドブレットは翌日には姿を消し、残された空き家からは、パリに出発したはずのブルースのスーツケースが発見される……。

 鐘楼の蝙蝠

 ロラックの人気がもうひとつ盛り上がらないのは、地味な作風が影響しているという見方もあるが、本作などはひとつひとつの要素をとってみれば決して地味なわけではない。
 若い新聞記者の冒険談という掴みはよいし、そこから首無し死体の発見という流れも引き込まれる。描写も安定しているし、ストーリーのテンポも良い。衝撃的なラストとまではいかないが思わずニヤリとさせる程度のオチはしっかりと用意してくれる。
 全然悪くないのである。十分に楽しめるレベルだ。
 どこか突出したところがないために印象として損はしているけれど、この全体的なバランスの良さ、安定感は、当時のベストセラー作家としては強力な武器だったはず。むやみにケレンを狙ってみても、かえって著者の良さが失われる可能性もあるだろう。この全体的なブレンド感をこそ味わうのがロラックの楽しみ方と思うのだが。

 なお、本書の解説ではマクドナルド警部の魅力についてプッシュしているが、少々気合いが入りすぎである(苦笑)。売上げアップのためにはまずキャラクターありきとみたのだろうが、マクドナルドも欠点が非常に少ないタイプなので、逆にアピールが難しい気がするのだがどうだろう。

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Comments

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Ksbcさん

それはお疲れさまです。

>ご苦労さんの小さな贈り物になりますでしょうか(笑)。

きつい最中にはおすすめしませんが、一段落していらっしゃるのなら、穏やかな英国クラシックミステリですから気分転換にはいい読み物だと思いますよ。お大事に。

Posted at 10:11 on 08 23, 2014  by sugata

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はい、ありがとうございます。
今年に入って義父の看病で実家に戻っておりましたが、義父の死去とそれに伴う法事もろもろが一段落して、明日(23日)戻ってきます。
ご苦労さんの小さな贈り物になりますでしょうか(笑)。そうなればいいですが…。

Posted at 18:46 on 08 22, 2014  by Ksbc

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Ksbcさん

『悪魔と警視庁』がお好みなら、『鐘楼の蝙蝠』も間違いなく楽しめるかなと。奥様にもよろしくお伝えください。

Posted at 23:33 on 08 21, 2014  by sugata

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『悪魔と警視庁』は、妻が気に入っているようでした。
最近、古書でゲットしましたので、近いうちにと思っております。

Posted at 11:50 on 08 21, 2014  by Ksbc

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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