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 先日『ROM』142号が届く。今号は短編探偵小説特集で、小林晋氏ががっつりクラシックの面白そうなところを紹介してくれている。ううむ、原書が読めると一気に読書の幅が広がるのが羨ましい。

 『ミステリマガジン』の10月号も神保町で購入。こちらは特別企画で藤田宣永氏によるセリノワールにスポットを当てた特集。デザインも本家に合わせてオシャレである。こういう企画は大歓迎。今晩はゆっくり読ませてもらおう。


 読了本はパトリック・クェンティンの『女郎蜘蛛』。長らく復刻が待たれていたピーター・ダルース・シリーズの第八作で事実上のシリーズ最終作。また、クェンテインが創造したもう一人のシリーズ探偵トラント警部補も登場するという、いろいろな意味で要注目の作品である。

 こんな話。演劇プロデューサーのピーター・ダルースはただいま仮独身状態。女優の妻アイリスが、母親の付き添いでジャマイカへ出かけているのだ。
 そんな折り、ピーターは同じアパートメントに住む女優ロッティのホームパーティーに誘われ、作家志望の娘ナニーと知り合う。ナニーの貧しい生活に同情したピーターは、自分のアパートメントには日中誰もいないからと、そこで執筆できるよう鍵を貸してしまう。
 やがてアイリスが帰国するときがきた。いそいそと空港へ迎えに行くピーター。そして二人で帰宅すると、そこにはあろうことかナニーの死体が。ピーターに遊ばれた末の自殺と周囲はみるが、潔白のピーターは汚名をすすぐべく調査を開始する。しかし、事実が明らかになるにつれ、ピーターの立場はいっそう泥沼へ……。

 女郎蜘蛛

 お見事。最終作にふさわしい傑作である。
 軸となるのはフーダニットだが、被害者がなぜ殺されたのかという動機の部分も同時に胆となる。それが明らかになったとき、事件の真相が見えてくるのだが、ここで易々と終わらせないのが著者の真骨頂。限られた少数の登場人物だけで、ここまできれいにどんでん返しを見せる腕前にはつくづく感心させられる。
 また、その過程がいわゆる本格にありがちな関係者への訊問で進むのではなく、あくまで巻き込まれ方のサスペンスというのもエンターテインメントとしては大きなポイントだろう。著者の作風が初期の本格から後期のサスペンスに移行していったというのはよく知られるところだが、その境界線上にあるピーター・ダルース・シリーズは、結果的に両者の長所を合わせた幸せな作品群といえるのではないだろうか。

 ところで本シリーズの魅力をミステリ要素に求めるというのは当然だろうが、ピーターとアイリス、二人のドラマに惹かれる人も少なくないだろう。
 クェンティンは二人を単に探偵役とその妻という存在に留まらせず、シリーズ全体の主題と言ってもいいくらい、その関係性と紆余曲折を描いてきた。本作はそちらの方でも最終作にふさわしい展開を見せる。
 しかし、本作でのピーターは浮気者とか容疑者とかいろいろな疑いをかけられ、その汚名をすすぐために奮闘するのだが、まあほとんど自業自得なのがいやはや何とも(笑)。

 ちなみに、いよいよ未訳のピーターものラスト一冊となった『Run to Death』は論創社から出るらしい。シリーズ第七作なので本来なら『女郎蜘蛛』の前に読みたかったところだが、まあ、出るだけよしとしますか。
 個人的には続けてトラント警部補シリーズもお願いしたいものだ。本作ではちょっと控えめではあったが、この探偵さんも実はピーターに負けないぐらい言動に難ありらしいので(笑)。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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