- Date: Wed 27 08 2014
- Category: アンソロジー・合作 光文社文庫ミステリー文学資料館/編
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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ミステリー文学資料館/編『古書ミステリー倶楽部』(光文社文庫)
ビブリオミステリーを集めたアンソロジー『古書ミステリー倶楽部』を読む。まずは収録作。
江戸川乱歩「口絵」
松本清張「二冊の同じ本」
城昌幸「怪奇製造人」
甲賀三郎「焦げた聖書」
戸板康二「はんにん」
石沢英太郎「献本」
梶山季之「水無月十三幺九」
出久根達郎「神かくし」
早見裕司「終夜図書館」
都筑道夫「署名本が死につながる」
野呂邦暢「若い沙漠」
紀田順一郎「展覧会の客」
仁木悦子「倉の中の実験」

読書が好きなのだから本好きなのは当たり前なのだけれど、ミステリ好きには殊に本好きが多い気がしてならない。書物にちなんだミステリをビブリオミステリというが、わざわざビブリオSFとかビブリオ歴史小説という言い方はあまりしないものなぁ。
ただ、近年は『ビブリア古書堂の事件手帖』とか『図書館戦争』の影響もあるのか、少しこのジャンルの認知度が広がった気もする。気のせいか。
それはともかく『古書ミステリー倶楽部』。ビブリオミステリというポイントを除いたとしても、なかなか充実した一冊である。
松本清張「二冊の同じ本」は、知人が所有していた二冊の同じ古書を手に入れた主人公が、その書き込みの秘密を探るうちに……というお話。事実だけを追いすぎて、やや味わいの少ない文章になってしまっているが、清張らしい綿密なプロットで読みごたえは十分。
城昌幸の「怪奇製造人」はお馴染みの一作で、さすがに今となっては驚きも少ないが、初めて読む人なら楽しめるか。
意外にも健闘しているのが甲賀三郎の「焦げた聖書」。露天で手にしたある聖書に秘められた謎を追う話だが、雰囲気も展開も魅力的で、著者が甲賀三郎であることを忘れさせてくれるぐらいだ(笑)。
それだけにラストの急展開と説明的すぎる告白が、惜しいといえば惜しい。ここだけ急に甲賀三郎クオリティに戻るのが玉に瑕である。
戸板康二の「はんにん」は、ミステリ小説の登場人物紹介欄に「はんにん」という書き込みがあり……というミステリあるあるのような話。他愛ないけれど、著者の視線が優しくてよい。
石沢英太郎「献本」は文芸同人誌の世界を垣間見せてくれるダークな話。最初は楽しいはずの趣味の集まりなのに、その壊れていく様が興味深い。ラストは上手いというよりは、ちょっと余計な印象もあり。
「水無月十三幺九」は梶山季之の「せどり男爵数奇譚」からの一篇。先入観をもたずに読んでほしいが、責任は持ちません(苦笑)。
「神かくし」はショートショート。短いながらも余韻は悪くない。大人のためのメルヘン。
ジュニア小説の書き手、早見裕司の作品はおそらく初めて読む。それが「終夜図書館」でよかったと思える一作。
作者自身を思わせる主人公が、昔のジュニア小説を求めて、ある図書館にやってくる。そこはかつてないほどのジュニア小説を完全収集した図書館だった。しかし、この図書館の最大の秘密は……。
著者のジュニア小説愛に溢れるだけの話かと思っていたが(それだけでも十分楽しめるのだが)、ミステリ的なオチもきちんと用意されている。これは見事。
「署名本が死につながる」はキリオン・スレイもの。なぜぼろぼろの古本を新しいものに変えていったのか……という導入の謎で引っ張る。安定したレベルはさすが都筑道夫。
野呂邦暢は純文学畑の作家。「若い沙漠」はミステリとしては薄味ながら、叙情性豊かに読ませる。こういうのが混じるとアンソロジーに奥行きや幅が出てよいね。
古書ミステリといえばやはり紀田順一郎を忘れてはならない。「展覧会の客」もさすがの一作で、古書マニアの業がひしひしと伝わってくる。
「倉の中の実験」も傑作。老人問題、若者の異常心理、思春期の少女の微妙な精神状態など、読みどころが多く、読んでいる間は常に不安な気持ちにさせられる。仁木悦子ならではの怖さ。これが気に入った方は出版芸術社の『子供たちの探偵簿』をぜひどうぞ。
以上、ミニコメ。マイ・フェイバリットを挙げるとすると、「焦げた聖書」「終夜図書館」「倉の中の実験」の三作か。全体的にレベルの高いアンソロジーだが、たまたまなのか編者の好みなのか、全体的にえぐい作品が多い気がした。対象が何であれ偏執狂的な愛を描くとこういう結果になるということか(苦笑)。
江戸川乱歩「口絵」
松本清張「二冊の同じ本」
城昌幸「怪奇製造人」
甲賀三郎「焦げた聖書」
戸板康二「はんにん」
石沢英太郎「献本」
梶山季之「水無月十三幺九」
出久根達郎「神かくし」
早見裕司「終夜図書館」
都筑道夫「署名本が死につながる」
野呂邦暢「若い沙漠」
紀田順一郎「展覧会の客」
仁木悦子「倉の中の実験」

読書が好きなのだから本好きなのは当たり前なのだけれど、ミステリ好きには殊に本好きが多い気がしてならない。書物にちなんだミステリをビブリオミステリというが、わざわざビブリオSFとかビブリオ歴史小説という言い方はあまりしないものなぁ。
ただ、近年は『ビブリア古書堂の事件手帖』とか『図書館戦争』の影響もあるのか、少しこのジャンルの認知度が広がった気もする。気のせいか。
それはともかく『古書ミステリー倶楽部』。ビブリオミステリというポイントを除いたとしても、なかなか充実した一冊である。
松本清張「二冊の同じ本」は、知人が所有していた二冊の同じ古書を手に入れた主人公が、その書き込みの秘密を探るうちに……というお話。事実だけを追いすぎて、やや味わいの少ない文章になってしまっているが、清張らしい綿密なプロットで読みごたえは十分。
城昌幸の「怪奇製造人」はお馴染みの一作で、さすがに今となっては驚きも少ないが、初めて読む人なら楽しめるか。
意外にも健闘しているのが甲賀三郎の「焦げた聖書」。露天で手にしたある聖書に秘められた謎を追う話だが、雰囲気も展開も魅力的で、著者が甲賀三郎であることを忘れさせてくれるぐらいだ(笑)。
それだけにラストの急展開と説明的すぎる告白が、惜しいといえば惜しい。ここだけ急に甲賀三郎クオリティに戻るのが玉に瑕である。
戸板康二の「はんにん」は、ミステリ小説の登場人物紹介欄に「はんにん」という書き込みがあり……というミステリあるあるのような話。他愛ないけれど、著者の視線が優しくてよい。
石沢英太郎「献本」は文芸同人誌の世界を垣間見せてくれるダークな話。最初は楽しいはずの趣味の集まりなのに、その壊れていく様が興味深い。ラストは上手いというよりは、ちょっと余計な印象もあり。
「水無月十三幺九」は梶山季之の「せどり男爵数奇譚」からの一篇。先入観をもたずに読んでほしいが、責任は持ちません(苦笑)。
「神かくし」はショートショート。短いながらも余韻は悪くない。大人のためのメルヘン。
ジュニア小説の書き手、早見裕司の作品はおそらく初めて読む。それが「終夜図書館」でよかったと思える一作。
作者自身を思わせる主人公が、昔のジュニア小説を求めて、ある図書館にやってくる。そこはかつてないほどのジュニア小説を完全収集した図書館だった。しかし、この図書館の最大の秘密は……。
著者のジュニア小説愛に溢れるだけの話かと思っていたが(それだけでも十分楽しめるのだが)、ミステリ的なオチもきちんと用意されている。これは見事。
「署名本が死につながる」はキリオン・スレイもの。なぜぼろぼろの古本を新しいものに変えていったのか……という導入の謎で引っ張る。安定したレベルはさすが都筑道夫。
野呂邦暢は純文学畑の作家。「若い沙漠」はミステリとしては薄味ながら、叙情性豊かに読ませる。こういうのが混じるとアンソロジーに奥行きや幅が出てよいね。
古書ミステリといえばやはり紀田順一郎を忘れてはならない。「展覧会の客」もさすがの一作で、古書マニアの業がひしひしと伝わってくる。
「倉の中の実験」も傑作。老人問題、若者の異常心理、思春期の少女の微妙な精神状態など、読みどころが多く、読んでいる間は常に不安な気持ちにさせられる。仁木悦子ならではの怖さ。これが気に入った方は出版芸術社の『子供たちの探偵簿』をぜひどうぞ。
以上、ミニコメ。マイ・フェイバリットを挙げるとすると、「焦げた聖書」「終夜図書館」「倉の中の実験」の三作か。全体的にレベルの高いアンソロジーだが、たまたまなのか編者の好みなのか、全体的にえぐい作品が多い気がした。対象が何であれ偏執狂的な愛を描くとこういう結果になるということか(苦笑)。
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>わたしならこれに椎名誠「悶え苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵」も入れるかな(笑)
そうそう、ついでに『さらば国分寺書店のオババ』も入れて……ちーがーうー(笑)。
ま、思った以上に良いアンソロジーで楽しめました。おすすめです。