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 アンドリュウ・ガーヴは主に五十~七十年代にかけて活躍したイギリスのミステリ作家。シリーズものはほとんど書かず、毎回、趣向を凝らしたノンシリーズのサスペンスで勝負し、人気を集めた。長篇も五十作近く残しており、その半数近くがポケミスで邦訳もされている。
 だが悲しいかなその人気はミステリマニア止まりのようで、文庫化されたものはハヤカワと創元で各一冊ずつという寂しさ。知られている作品はおそらく悪女ものの傑作『ヒルダよ眠れ』ぐらいである。ここ二十年ほど、日本ではほとんど忘れられた作家となっていたのが現状だ。
 そんな状況を打破してくれたのが例によって論創社。昨年秋頃に『殺人者の湿地』、そして今年は『運河の追跡』と、比較的短い間隔で刊行しているのが嬉しいかぎりだ。

 などと書いておきながら、実は管理人もこれまでに読んだのは先に挙げたハヤカワ文庫の『ヒルダよ眠れ』、創元推理文庫の『諜報作戦/D13峰登頂』のみ。ああ恥ずかしい。これではいかんというわけで、本日の読了本はアンドリュウ・ガーヴの『運河の追跡』。

 主婦のかたわらモデル業もこなすクレア・ハンター。やり手のビジネスマンの夫、アーノルド、一歳になる娘のクリスティーンと暮らし、傍目からは恵まれた一家だった。だが、徐々に明らかになるアーノルドの破綻した性格。クレアはそんな生活に耐えきれず、離婚を決意する。
 ところが離婚を承諾しないアーノルド。業を煮やしたクレアは娘を連れて別居するが、なんとアーノルドは娘を拉致し、返してほしければ離婚を取りやめろと脅迫する。クレアはやむなく警察に届けで、アーノルドはとうとう逮捕された。
 これで一件落着かに思えた。ところがアーノルドは、量刑が重くなろうともクリスティーンの居所を明かすつもりはないと宣言する。途方に暮れるクレアだったが、遂に自力で娘を捜索することを決心した……。

 運河の追跡

 小粒ながらキチッとまとめられた佳作。
 まず娘が拉致されるまでの序盤で、一気に物語に引き込まれる。倫理観の欠片もない夫アーノルドの性格破綻振りが凄まじく、どのようにこの男と対決するのだろうという期待が高まる。
 ところが中程で呆気なく夫は逮捕。実は物語のメインが夫との対決ではなく、娘を捜索する主人公たちの旅にあることが明らかになるという結構だ。
 こうして後半は主人公のクレアとカメラマンのコンビによる捜索の旅がメインになる。しかもただの捜索行ではなく、ボートに乗った運河の旅というのがひと味違う。いかにして娘を発見するかという興味はもちろんだが、ボートの操縦や田園の光景などがけっこう細かく描写され、冒険小説好きとかアウトドア好きにもアピールする趣向といえばいいか。

 惜しむらくは、この運河の旅に入ると、それまでの緊張感が薄れてしまうところ。秀逸な夫のキャラクターで前半を引っ張るだけに、それまでのハラハラ感がギアを一段落とした感じになり、サスペンスとしては少々物足りなさを感じてしまった。
 とはいえ、オリジナリティの高さ、ほどよいボリューム感、感情移入しやすい登場人物たちなど、そつなくツボを押さえた作りはさすが職人芸。気軽に読めるエンターテインメントとしてオススメである。
 これをきっかけに翻訳や復刊が進むことを切に希望する次第。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌





M・ケイゾーさん

お恥ずかしい。『カックー線事件』と『遠い砂』も文庫になっていたんですね。これまで見た記憶がなかったんで、文庫はてっきり先の二冊だけかと思っていました。

>あらすじを読むと決して好みとは思わないのですが、読むと面白いどこに話が向かうかわからない。

なるほど。ボリューム自体はどれもコンパクトですから、事実だけをざっとまとめられると、面白さは伝わりにくいのかもしれません。
ただ、シリーズをもたない作者は毎作ごとが勝負でしょうから、プロット作りや語りについては、やはり確かなものがあるんでしょうね。
【2014/09/15 11:39】 URL | sugata #8Y4d93Uo[ 編集]

 あらすじを読むと決して好みとは思わないのですが、読むと面白いどこに話が向かうかわからない。創元は未読ですが、ハヤカワ文庫の「カックー線事件」が好きです。
 由利徹を連想するのですがね。
【2014/09/15 06:33】 URL | M・ケイゾー #-[ 編集]















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