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 ムーミン・シリーズの五作目『ムーミン谷の夏まつり』を読む。全九作なので、これがちょうど折り返し地点。

 平和な六月のムーミン谷に、突然、大洪水が押し寄せた。ムーミン屋敷もすっかり浸水してしまい、ムーミンたちは流れてきた一軒の大きな家に移り住む。
 実はそれは劇場だったのだが、ムーミンたちはそもそも劇場が何なのかもわからない。普通の家とはずいぶん違った作りに悩みながらも、すぐに馴染んでゆく一同。ところが、家の中にはお化けが出るとか出ないとか騒動が持ち上がり、おまけにふとしたはずみでムーミントロールとスノークのお嬢さん、そしてミイが立て続けに離ればなれになってしまう……。

 ムーミン谷の夏まつり

 著者の戦争体験がムーミン物語に影響しているというのは前にも書いたとおり。過去の作品では、それが彗星衝突や火山の噴火、洪水、離ればなれになった家族を捜すといった物語として反映されている。
 本作でも正にそういう展開で、また災害の話かと少々飽きてきた感もないではない。だが、戦争の影響もあるにはあるのだろうが、どちらかというと本作では物語を転がす手段として用いている節も感じられる。
 というのも、本作では離ればなれになったそれぞれのグループごとに異なるドラマが用意されており、むしろそちらの方にこそ、より大きなテーマ性を感じられるからだ。もちろん離ればなれの家族の再会は大きな柱なのだが、もはやそういう流れは単にムーミン物語のスタイルという面が強くなってきているのではないだろうか。

 で、グループごとのドラマというかエピソードだが、大きく三つのパートで進行していく。
 とりわけ面白かったのが、ミイとスナフキンのパート。もともとはミイが一人ではぐれるのだが、そこにムーミン谷を目指していたスナフキンが合流する。自由人のスナフキンは理不尽なルールを憎み、公園の立て札を引っこ抜いたり、ニョロニョロを使って公園番を攻撃したり、果ては親のいない子供たちの世話をする羽目になったりと、これまで以上に人間臭くアグレッシブ(笑)。それこそ戦時下のフィンランド人の心情を表しているかのようだ。
 そこに常に憎まれ口をたたくミイが加わる。シニカルだがけっこう真実を突いていたりするミイは、今回のスナフキンと一緒になることで、人間の攻撃的な部分を感じさせる。

 かたやムーミントロールとスノークのお嬢さんの二人組。前向きだがなるようになるさという二人の姿勢が、しがらみや慣習に縛られているフィリフヨンカの生き方を変えるきっかけになるというエピソードがいい。ミイとスナフキンのコンビとの対比が効いているのも○。

 ムーミンパパ&ママをはじめとする残りの面子は、劇場でお芝居をやることになるのだが、こちらのパートには新顔のホムサ、ミーサ、エンマといった面々が加わっている。ムーミン一家との価値観の違いを、さまざままキャラクターによって語らせているわけである。
 エンマやミーサはムーミン一家に苛立ち、パパたちもときには困惑するものの、最終的には皆の生きたい道につながっていく。これを道理ではなく、ドタバタしたやりとりの結果として見せてくれるのが著者の巧さであり、染みるところなのだ。

 トータルとしては、過去四作に比べるとずいぶん違う印象を受けた。家族の再会という点では似たようなストーリーと言えないこともないのだが、上記のように三つのパートを同時進行させて技巧的にメッセージを組み立てている。これまでのセンスだけでもっていった作品とは少し異なり、より習熟したヤンソンの語りを楽しめる、そんな作品といえるだろう。
 スナフキン推しの方には特におすすめ(笑)。


テーマ:児童文学 - ジャンル:本・雑誌




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