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 先日の『蟻の木の下で』の続きというわけでもないが、またまた乱歩賞作品を読んでみる。ものは藤村正太の『孤独なアスファルト』。1963年、第九回乱歩賞受賞作である。

 こんな話。東京は小金井市にある中小企業の日東グラスウール。ガラス繊維を扱うために工場の環境はお世辞にもよいとは言えないが、東北の田舎から出てきた田代には、それでも最初は魅力ある職場に見えた。しかし、東北訛が治らない田代はコンプレックスを捨てきれず、会社はおろか定時制の高校でも心が開けず、自分の殻に引きこもっていくようになる。
 そんな折、常務の郷司が井の頭で死体となって発見される。容疑者として浮上したのは、事件の直前、他社を応募していたことがきっかけで郷司と諍いを起こしていた田代だった。しかし事件を担当した来宮警部は状況から、犯人は別にいるのではないかと考える……。

 孤独なアスファルト

 おお、渋いなぁ。乱歩賞にこういうタイプの作品が入っていたとは思わなかった。
 方向性はいわゆる社会派ミステリー。メインテーマとしては大都会に住む人間の孤独を描きたかったのだろうが、その他にも当時の東京が抱える諸問題、それは格差社会や学歴社会、交通問題など幅広いのだが、そういった諸々の事柄をそこはかとなく取り入れつつリアルな物語に仕上げているのが巧い。
 もちろん現代の東京とはかけ離れてきている部分もあるだろうが、それでもこの作品が扱うテーマはけっこう普遍的な感じも受ける。ネットも発達している今、大都会で孤独を感じる若者などどこにいるのかという気もするが、逆にネットが発達した現代だからこそ新たな疎外感を感じる場面が生まれる。秋葉原の事件などは正にそうした事象のひとつではなかったか。

 話をミステリ側に寄せると、こちらも社会派特有のリアルで地道な捜査が進められる。斬新と言えるようなトリックは用いられておらず、非現実的にならないレベルの小技を上手く組み合わせているといった印象である。
 ただ、確かにトリック自体にめぼしいものはないのだけれど、あるポイントによって、事件の構図をがらりと変えてみせるテクニックは非常に効果的だ。連城三紀彦ほどの派手さはないが、趣向としてはあのタイプである。地道な捜査が主の物語だが、ミステリとしての醍醐味はきちんと押さえているといえるだろう。
 惜しむらくはけっこう大事なところで偶然に頼る部分がちらほら見られたのは気になった。社会派だから別に名探偵のごとき推理は期待していないけれど、もう少し推理の帰結によって味わえる爽快感はあってもよかっただろう。

 とりあえずトータルでは満足できる一冊。
 社会派というのはある意味通俗小説と同じように、風化しやすいジャンルである。しかもリアリティを求めるが故にどうしても地味な作風になりがちだが、そういったハンディを越えて受賞したのが素晴らしい。当時の審査員にも拍手。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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