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大阪圭吉『死の快走船』(戎光祥出版)
ミステリ珍本全集から大阪圭吉の『死の快走船』を読む。
これまで珍本全集で刊行されてきた山田風太郎や輪堂寺耀、栗田信は内容的に"珍本"という言葉がふさわしかったが、大阪圭吉クラスになるともう古書の存在すら珍しいわけで。本書はそのレアどころの著作を軒並み収録したという恐ろしい本である。
現在、大阪圭吉の現役本は、本格を中心とした創元推理文庫の『とむらい機関車』と『銀座幽霊』、防諜探偵・横川禎介シリーズをまとめた論創社の『大阪圭吉探偵小説選』の三冊がある。
一方、確認されている大阪圭吉の生前の短編集は五冊。この中から、上の三冊に収録されていない残りの作品三十篇をすべて収録したのが本書なのである。しかも単行本未収録の作品まで八篇を収めているという徹底ぶり。
自分で集める手間と費用を考えれば、これはもうありがたい限りである。日下氏の編集ぶりは毎度素晴らしい。

PART 1 『死の快走船』
「序」(江戸川乱歩)
「大阪圭吉のユニクさ」(甲賀三郎)
「死の快走船」
「なこうど名探偵」
「人喰い風呂」
「巻末に」
PART 2 『ほがらか夫人』
「謹太郎氏の結婚」
「慰問文夫人」
「翼賛タクシー」
「香水紳士」
「九百九十九人針」
「約束」
「子は国の宝」
「プラプイ君の大経験」
「ほがらか夫人」
「正宗のいる工場」
「トンナイ湖畔の若者」
PART 3 『香水夫人』
「香水夫人」
「三の字旅行会」
「告知板の謎」
「寝言を云う女」
「特別代理人」
「正札騒動」
「昇降時計」
「刺青のある男」
PART 4 『人間燈台』
「唄わぬ時計」
「盗まぬ掏摸」
「懸賞尋ね人」
「ポケット日記」
「花嫁の病気」
PART 5 『仮面の親日』
「恐ろしき時計店」
「寝台車事件」
「手紙を喰うポスト」
PART 6 『単行本未収録短篇集』
「塑像」
「案山子探偵」
「水族館異変」
「扮装盗人」
「証拠物件」
「秘密」
「待呆け嬢」
「怪盗奇談」
収録作は以上。西荻窪の古書店、盛林堂さんが私家版として出した『大阪圭吉作品集成』の作品なども混じっている(作品提供もあったようだ)。
さて、こうしてまとめて大阪圭吉作品を読んでみると、近年で形成されてきた"戦前には数少ない本格作家"という謳い文句は、やや狭い見方のような気もしてくる。
もちろんそれは一面では正しい。ただ、本格でスタートした大阪圭吉は、評判があまりよろしくなかったからか途中で作風を大幅に広げていっており、結果的に他のジャンルで本格を上回る量の作品を書き残している。
本書に収録されている作品でも本格は非常に少なく(むろんそちらは創元版で収録されているからだが)、ほとんどはユーモアやスパイもの、人情噺である。正直これまでのイメージで本書を読むと大阪圭吉の実像はかなり揺らぐだろう。しかし、実際にはこれらも含めて大阪圭吉なのであり、そういう意味では著者の本質や探偵小説史における立ち位置などはもう一度整理してみてもよいのではないだろうか。
もちろん箸にも棒にもかからないような作品ばかりならあまり意味はないのだろうが、同時代の他のユーモアミステリやスパイものと比べても、決して見劣りはしていない。むしろそういうジャンルの作品でも、大阪圭吉ならではの捻りや仕掛けがあって十分に楽しめるのである。
評論家の権田萬治氏は中期のスパイものや国威高揚ものに関して「今日すべて読むに耐えない作品〜」と切って捨てたそうだが、これは少し言いすぎであろう。本人自身の本格作品と比べれば分が悪いだろうが、このレベルでだめなら他の大御所もほぼ壊滅ではないか。
トリックメーカーからストーリーテラーへと移行しつつあった著者だが、この戦時という特殊な状況が余計な影響を与えたことは自明だし、なんとも不運の影がつきまとっている作家である。もし戦争という枠がなく自由に物を書くことができていたら、他ジャンルであっても相応の結果を残しただろうと信じたい。
まあ、戦争という枠がなかったら、そもそも本格で勝負してほしいところではあるが。
これまで珍本全集で刊行されてきた山田風太郎や輪堂寺耀、栗田信は内容的に"珍本"という言葉がふさわしかったが、大阪圭吉クラスになるともう古書の存在すら珍しいわけで。本書はそのレアどころの著作を軒並み収録したという恐ろしい本である。
現在、大阪圭吉の現役本は、本格を中心とした創元推理文庫の『とむらい機関車』と『銀座幽霊』、防諜探偵・横川禎介シリーズをまとめた論創社の『大阪圭吉探偵小説選』の三冊がある。
一方、確認されている大阪圭吉の生前の短編集は五冊。この中から、上の三冊に収録されていない残りの作品三十篇をすべて収録したのが本書なのである。しかも単行本未収録の作品まで八篇を収めているという徹底ぶり。
自分で集める手間と費用を考えれば、これはもうありがたい限りである。日下氏の編集ぶりは毎度素晴らしい。

PART 1 『死の快走船』
「序」(江戸川乱歩)
「大阪圭吉のユニクさ」(甲賀三郎)
「死の快走船」
「なこうど名探偵」
「人喰い風呂」
「巻末に」
PART 2 『ほがらか夫人』
「謹太郎氏の結婚」
「慰問文夫人」
「翼賛タクシー」
「香水紳士」
「九百九十九人針」
「約束」
「子は国の宝」
「プラプイ君の大経験」
「ほがらか夫人」
「正宗のいる工場」
「トンナイ湖畔の若者」
PART 3 『香水夫人』
「香水夫人」
「三の字旅行会」
「告知板の謎」
「寝言を云う女」
「特別代理人」
「正札騒動」
「昇降時計」
「刺青のある男」
PART 4 『人間燈台』
「唄わぬ時計」
「盗まぬ掏摸」
「懸賞尋ね人」
「ポケット日記」
「花嫁の病気」
PART 5 『仮面の親日』
「恐ろしき時計店」
「寝台車事件」
「手紙を喰うポスト」
PART 6 『単行本未収録短篇集』
「塑像」
「案山子探偵」
「水族館異変」
「扮装盗人」
「証拠物件」
「秘密」
「待呆け嬢」
「怪盗奇談」
収録作は以上。西荻窪の古書店、盛林堂さんが私家版として出した『大阪圭吉作品集成』の作品なども混じっている(作品提供もあったようだ)。
さて、こうしてまとめて大阪圭吉作品を読んでみると、近年で形成されてきた"戦前には数少ない本格作家"という謳い文句は、やや狭い見方のような気もしてくる。
もちろんそれは一面では正しい。ただ、本格でスタートした大阪圭吉は、評判があまりよろしくなかったからか途中で作風を大幅に広げていっており、結果的に他のジャンルで本格を上回る量の作品を書き残している。
本書に収録されている作品でも本格は非常に少なく(むろんそちらは創元版で収録されているからだが)、ほとんどはユーモアやスパイもの、人情噺である。正直これまでのイメージで本書を読むと大阪圭吉の実像はかなり揺らぐだろう。しかし、実際にはこれらも含めて大阪圭吉なのであり、そういう意味では著者の本質や探偵小説史における立ち位置などはもう一度整理してみてもよいのではないだろうか。
もちろん箸にも棒にもかからないような作品ばかりならあまり意味はないのだろうが、同時代の他のユーモアミステリやスパイものと比べても、決して見劣りはしていない。むしろそういうジャンルの作品でも、大阪圭吉ならではの捻りや仕掛けがあって十分に楽しめるのである。
評論家の権田萬治氏は中期のスパイものや国威高揚ものに関して「今日すべて読むに耐えない作品〜」と切って捨てたそうだが、これは少し言いすぎであろう。本人自身の本格作品と比べれば分が悪いだろうが、このレベルでだめなら他の大御所もほぼ壊滅ではないか。
トリックメーカーからストーリーテラーへと移行しつつあった著者だが、この戦時という特殊な状況が余計な影響を与えたことは自明だし、なんとも不運の影がつきまとっている作家である。もし戦争という枠がなく自由に物を書くことができていたら、他ジャンルであっても相応の結果を残しただろうと信じたい。
まあ、戦争という枠がなかったら、そもそも本格で勝負してほしいところではあるが。
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Trackback from David the smart ass 10 14, 2014 22:26
Ksbcさん
まあ、内容的には一気に読むようなものでもないので、ぼちぼち読む方がおすすめかとは思います。ユーモアものとか戦意高揚ものとか、予想以上に楽しめますよね。
>戎光祥出版さんて大丈夫なんですかね…?
ええと…… (^_^;) 想像する限りでは正直厳しいのではないでしょうか。定価はそれなりにいい数字をつけているので、問題は部数ですね。
Posted at 23:30 on 10 06, 2014 by sugata