- Date: Mon 13 10 2014
- Category: 国内作家 橘外男
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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橘外男『死の蔭探検記』(現代教養文庫)
台風がきているのでひきこもって読書。今はなき現代教養文庫から橘外男傑作選のI巻『死の蔭探検記』を読む。
ざくっと橘外男の全貌を知るには、ちくま文庫の『怪奇探偵小説名作選5 橘外男集 逗子物語』が便利だが、それが出るまではこの現代教養文庫の傑作選全三巻が定番だった。中央書院の橘外男ワンダーランド全六巻という手もあったが、あちらはハードカバーということもあって、やはりおすすめはお手軽な文庫版だったのだ。
橘外男の魅力というと、実話という形をとった奔放な作品世界と特徴的な文体ではないだろうか。熱に浮かされたような独特の語りで描写される海外を舞台にした秘境物、かたや一転して静謐な文体で語られる国内を舞台にした幻想怪奇譚。このふたつの顔が魅力である。
まあ、文体が異なるというよりは、語られる素材の違いで受ける印象が変わってくるだけなのだが、共通するのはストレートで過剰な形容である。だから猥雑なものはより猥雑に、怖いものはより怖く伝わる。「饒舌体」と言われたらしいが、感情を増幅する文体といってもよいだろう。
久生十蘭みたいな格調は感じられないけれど、物語の内容に非常にマッチしているのが最大のポイント。とにかく読んでいて思わず引き込まれる文体なのだ。

そんな文体で語られる物語が、本書では以下のとおり六作収録されている。再読もいくつかあったが、非常に楽しい読書であった。
「酒場ルーレット紛擾記(トラブル)」
「怪人シプリアノ」
「死の蔭(チャブロ・マチュロ)探検記」
「恋と砲弾」
「逗子物語」
「生不動」
まずはユーモア小説といえる「酒場ルーレット紛擾記」。文藝春秋の懸賞募集で入選した著者の出世作でもある。内容は日本人とオランダ人が共同で始めた酒場の顛末記、というか店主の二人が喧嘩して仲直りするだけの話なのだが、それこそ文章の楽しさだけで読める話。
「怪人シプリアノ」は人狼テーマの怪奇小説。最初に学生時代の伏線だけを連ね、意外な形でクライマックスをもってくるストーリー展開が効果的。まあ、伏線がベタベタすぎて、誰一人としてシプリアノの怪しさに気づかないのが不思議だが(笑)、こういうサスペンスの盛り上げ方もいいものだ。
本筋とは関係ないが(いや、あるか)当時の人種差別とか偏見とかに関する表現が非常に露骨で、著者がこれを書いた根本にはそういうものがあったのかもしれない。
表題作の「死の蔭探検記」はオーソドックスな秘境もの。オーソドックスではあるがその展開は徹底的に激しく、一気に引き込まれる。
似たような話がマイクル・クライトンの某作品にあったことを思い出したが、あちらはちょうど逆の設定だったか。似たような素材を扱ってもここまで雰囲気が変わるのかという、ごく当たり前の感心をしてしまった。
「恋と砲弾」は激しい愛情の果てに待っている悲劇を描くが、感情の方向性がストレートなので、面白みはやや少ない。
「逗子物語」はちくま文庫版にも収録されているが、何度読んでも凄い。日本怪談アンソロジーを組んだときには絶対に外せない一作。悪いことはいわない。橘外男に興味がなくても、これと「蒲団」だけは読んでおいた方がいい。
「生不動」は火だるまになった三人の男女というイメージの激しさだけで読ませる話。一応、火だるまになった理由とかもあるが、ほとんど大した意味はない。その強烈なイメージがときには感動を残すという絵画的作品である。
ざくっと橘外男の全貌を知るには、ちくま文庫の『怪奇探偵小説名作選5 橘外男集 逗子物語』が便利だが、それが出るまではこの現代教養文庫の傑作選全三巻が定番だった。中央書院の橘外男ワンダーランド全六巻という手もあったが、あちらはハードカバーということもあって、やはりおすすめはお手軽な文庫版だったのだ。
橘外男の魅力というと、実話という形をとった奔放な作品世界と特徴的な文体ではないだろうか。熱に浮かされたような独特の語りで描写される海外を舞台にした秘境物、かたや一転して静謐な文体で語られる国内を舞台にした幻想怪奇譚。このふたつの顔が魅力である。
まあ、文体が異なるというよりは、語られる素材の違いで受ける印象が変わってくるだけなのだが、共通するのはストレートで過剰な形容である。だから猥雑なものはより猥雑に、怖いものはより怖く伝わる。「饒舌体」と言われたらしいが、感情を増幅する文体といってもよいだろう。
久生十蘭みたいな格調は感じられないけれど、物語の内容に非常にマッチしているのが最大のポイント。とにかく読んでいて思わず引き込まれる文体なのだ。

そんな文体で語られる物語が、本書では以下のとおり六作収録されている。再読もいくつかあったが、非常に楽しい読書であった。
「酒場ルーレット紛擾記(トラブル)」
「怪人シプリアノ」
「死の蔭(チャブロ・マチュロ)探検記」
「恋と砲弾」
「逗子物語」
「生不動」
まずはユーモア小説といえる「酒場ルーレット紛擾記」。文藝春秋の懸賞募集で入選した著者の出世作でもある。内容は日本人とオランダ人が共同で始めた酒場の顛末記、というか店主の二人が喧嘩して仲直りするだけの話なのだが、それこそ文章の楽しさだけで読める話。
「怪人シプリアノ」は人狼テーマの怪奇小説。最初に学生時代の伏線だけを連ね、意外な形でクライマックスをもってくるストーリー展開が効果的。まあ、伏線がベタベタすぎて、誰一人としてシプリアノの怪しさに気づかないのが不思議だが(笑)、こういうサスペンスの盛り上げ方もいいものだ。
本筋とは関係ないが(いや、あるか)当時の人種差別とか偏見とかに関する表現が非常に露骨で、著者がこれを書いた根本にはそういうものがあったのかもしれない。
表題作の「死の蔭探検記」はオーソドックスな秘境もの。オーソドックスではあるがその展開は徹底的に激しく、一気に引き込まれる。
似たような話がマイクル・クライトンの某作品にあったことを思い出したが、あちらはちょうど逆の設定だったか。似たような素材を扱ってもここまで雰囲気が変わるのかという、ごく当たり前の感心をしてしまった。
「恋と砲弾」は激しい愛情の果てに待っている悲劇を描くが、感情の方向性がストレートなので、面白みはやや少ない。
「逗子物語」はちくま文庫版にも収録されているが、何度読んでも凄い。日本怪談アンソロジーを組んだときには絶対に外せない一作。悪いことはいわない。橘外男に興味がなくても、これと「蒲団」だけは読んでおいた方がいい。
「生不動」は火だるまになった三人の男女というイメージの激しさだけで読ませる話。一応、火だるまになった理由とかもあるが、ほとんど大した意味はない。その強烈なイメージがときには感動を残すという絵画的作品である。
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