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 トーベ・ヤンソンの『ムーミン谷の冬』を読む。シリーズ第六作。

 松葉をたっぷりと食べて冬眠に入ったムーミンやその仲間たち。ムーミンたちは昔からは11月から4月まで冬眠するのが習わしで、今までそれが破られたことはない。ところがなぜかたった一人、ムーミントロールは冬の真っ只中で目覚めてしまう。
 はじめて見る雪の世界はしんとして、すべてが止まってしまった世界のようだ。起こしても起きないパパやママ、葉っぱがすべて落ちてしまった木々を見て、ムーミントロールは世界が死んでしまったと思い込む。だけど、そんな世界にもさまざまな出会いがあった。すばらしいしっぽをもったりす、とんがりねずみ、サロメちゃん、めそめそくん、おしゃまさん、ご先祖さま……。

 ムーミン谷の冬

 これはなかなか。
 ムーミン谷ではしょっちゅう天変地異が起こるので、読むたびに今回は異色作だなぁと思ったりするのだが、本作はムーミントロールがただ冬を越すだけの物語である。さほど大きな事件も起こらないという意味では、逆に異色作といってもいいかもしれない(笑)。
 ただ、本作のテーマや内容は明らかにこれまでの作品とは違っている。いや、違っているという言い方は適切ではないな。一線を越えたという感じなのだ。 

 これまでの作品と同様、表面的にはわかりやすい話である。少し読めば、冬が意味するものはムーミントロールが成長するための通過儀礼なのだとわかる。
 ただ、その通過儀礼が重い。児童書にしては、ましてや擬人化された可愛いキャラクターたちが登場する物語にしては、なかなかダークでハードな展開になっている。
 それは冬景色の描写であったり、あるいはそれに対するムーミントロールの受け止め方であったりする。すなわち冬のイメージは孤独の世界であり、死の世界である。何より強烈なのはあるキャラクターの"死"の場面までが描かれていることだろう。
 そもそもこのシリーズには戦時下の恐怖が物語に反映されることは多いのだが、それは"動"のイメージで、登場人物たちも持ち前の脳天気さや前向きな行動によって、人生を謳歌することは忘れない。対して本作では"静"のイメージ。自分たちでは変えることがかなわない状況であり、ひたすら我慢強く堪え忍ぶしかないのである。

 もちろんこのまま話が終わるはずもなく、いつものように新しい仲間との出会いがあり、一同はこの状況すら愉しんでしまう。冬のいいところも描かれ、物語は徐々に春に向けて進んでいくのだ。
 そして冬が終わるとき、ムーミントロールはまたひとつ大人になるのである。

 本作ではおなじみのキャラクターがほとんど登場しないのも大きな特徴だ。ムーミントロール以外ではミィぐらいである。ミィはムーミントロールと違い常に前向き・攻撃的であり、冬の世界でもアグレッシブに過ごしている。スナフキンとタイプは違うが、彼女もまたムーミントロールを導く一人といっていいだろう。
 その他の主要キャラクターはほとんどが初登場である。特におしゃまさんというキャラクターは重要で、冬の間、ムーミン屋敷の水浴び小屋に勝手に(笑)住みついている。目覚めたムーミントロールに冬についていろいろなことを教えてくれるが、彼女はムーミントロールを導くというより、冬の必要性を知らしめ、春の訪れを象徴する精霊のような存在なのかもしれない。
 他にもムーミンのご先祖様やめそめそくん、すばらしいしっぽを持ったリスなど印象的なキャラクターは多く、ムーミン谷の冬ならではの光景が描かれていくのが興味深い。

 これまでシリーズ六作を読んできたが、本作はいわゆる冒険の旅がない、もっとも静かな物語である。しかし、その内包するものがもっとも重く、個人的には一番印象に残る作品であった。

テーマ:児童文学 - ジャンル:本・雑誌



















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