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 『赤毛のレドメイン家』や『闇からの声』で有名なイーデン・フィルポッツがハリントン・ヘクスト名義で発表した『テンプラー家の惨劇』を読む。(今回ややネタバレあり)

 イングランド南部の広大な屋敷と地所を構える名門テンプラー一族。しかしある夜に黒装束の男が侵入し、当主の遺言状を盗み見られるという事件が起こる。そして以後、遺産継承者たちが次々と黒装束の男に狙われ、命を落としてゆく……。目的は遺産相続か、あるいは一族の皆殺しか? 警察の捜査をあざ笑うかのように殺戮が続く……。

 かつて乱歩が絶賛し、その作品がミステリベスト10などの常連であった頃、フィルポッツは絶対に読むべき作家であった。しかし、時代は流れ、乱歩の威光が薄れてしまった現在、作品の評価そのものが下がり、フィルポッツは忘れられつつある作家の一人となっている。
 久々にフィルポッツの作品を読み、それもやむを得ないことなのだと実感した。
 意外な犯人、驚くべき動機。この二つをもって本書を傑作とする意見もわからないではない。しかし、現代のあまりに利己的な犯罪をニュースで見聞きしている者には、この動機こそ十分ありそうな話なのだ。したがって動機が普通に理解できる以上、犯人も予想はつけやすい。そもそも登場人物の多くが死にたえ、容疑者がほとんどいないのだ。
 したがって本作をミステリとして読んだ場合、その評価は高くしようがない。
 そもそもフィルポッツは本当にミステリを書く気があったのか、という疑問がある。いや、それは言い過ぎか。しかし小説を書くにあたり、当時人気のあったミステリというスタイルを借りるという意志はあったはずだ。そんなふうに考えれば、本書に頻出する登場人物たちの宗教論議などは、まさにフィルポッツの一番語りたかった部分に他ならないのではないか。
 本作は表面的には本格探偵小説の形をとっているものの、その本質は謎解きではない。貴族階級の没落を背景にして、著者の思想や宗教観について語ったものなのである。したがって連続殺人が起こり探偵が登場するものの、ほとんど推理と呼べるようなものはなく、論理的に犯人が明かされるわけでもない。それはそうだ。本作は本質的にミステリではないのだから。

 ただ、フィルポッツのこういった小説が翻訳されるのは決して悪いことではない。むしろ普通小説の方も、もう少し読みたいぐらいなのだ。フィルポッツのスタンスや作風がより理解できれば、ミステリについても何らかの見えてくるものがあるはず。正直、本作を読んで『赤毛のレドメイン家』や『闇からの声』もおそらく違う読み方ができると思うようになった。いつ再読するかはわからんが、そういう意識でフィルポッツを見れるようになっただけでも、本書の意義は大きい。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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