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レオ・ブルース『ミンコット荘に死す』(扶桑社ミステリー)
レオ・ブルースの『ミンコット荘に死す』を読む。またまた版元が変わって扶桑社ミステリーとなったわけだが、まあ出してくれるならどこでもOK。
しかし、なんだな。ヘレン・マクロイとかD・M・ディヴァインとかアントニー・バークリーとか、すれっからしの本格ミステリ好きを唸らせる作家は何だかんだで固定ファンを掴み、比較的順調に紹介が続いているけれども、なぜかレオ・ブルースだけは苦戦しているイメージがある。内容的には上に挙げた作家に優るとも劣らないレベルなのだが、なぜ紹介が途切れるのかまったくもって不思議である。
まずは今回の扶桑社ミステリーが商業的にそこそこ結果を出し、残る作品も随時出版されることを願うばかりである。
歴史教師のキャロラス・ディーンのもとへ、ミンコット荘の女主人、マーガレット・ピップフォードから深夜に電話がかかってきた。娘婿のダリルが拳銃で自殺したらしいというのだ。早速かけつけたキャロラスは、ベッドの上に血まみれで横たわるダリルを確認。しかし、自殺と判断するには不可解な点もあることに気づく。やがて第二の事件が起こり……。

上で書いたとおり本作の売れ行きは非常に気になるところであり、そのためにもまずは中身が重要なのだが、これが期待に違わぬ出来であった。
いつものレオ・ブルースといえばいつものレオ・ブルースである。謎解きを中心に据えた本格ミステリではあるのだが、大きなトリックには拘らず伏線の妙で見せる。しかも古き良き英国本格ミステリの体をとりながら、実はコードを微妙に外した通好みの落としどころは正に絶品。
本作もブルースの真価を知らない人が読めば、最初はどうかと思うに違いない。周囲からあまり好ましくないと思われている人物が死んだことで、殺人事件という緊迫感すら乏しく、おまけに主人公の探偵趣味まで揶揄される始末。
また第二の事件では、ストーリー上の登場人物たちは混迷を極めるものの、読者には意外とわかりやすい手がかりとなる。
しかし、そういう流れを踏まえたうえで最終的に提示される真相は、正に斜め上を行く。この発想の飛躍に感心できるかどうかが、レオ・ブルースを気に入るかどうかのリトマス試験紙にもなっているのだ。
唯一の泣きどころは地味なストーリー展開というあたりだが、これにしたって上質なユーモアが退屈さから救ってくれる。シリーズキャラクターのやりとりは一冊だけではピンと来ないかも知れないが、読めば読むほど味が出る類のものだ。
ま、自分で書いていてもずいぶんな持ち上げようだが、面白いのだからしょうがない。正味な話、『結末のない事件』とか『死の扉』とかの傑作には及ばないけれども(苦笑)、クラシックミステリの醍醐味は十分に満喫できる一冊。
しかし、なんだな。ヘレン・マクロイとかD・M・ディヴァインとかアントニー・バークリーとか、すれっからしの本格ミステリ好きを唸らせる作家は何だかんだで固定ファンを掴み、比較的順調に紹介が続いているけれども、なぜかレオ・ブルースだけは苦戦しているイメージがある。内容的には上に挙げた作家に優るとも劣らないレベルなのだが、なぜ紹介が途切れるのかまったくもって不思議である。
まずは今回の扶桑社ミステリーが商業的にそこそこ結果を出し、残る作品も随時出版されることを願うばかりである。
歴史教師のキャロラス・ディーンのもとへ、ミンコット荘の女主人、マーガレット・ピップフォードから深夜に電話がかかってきた。娘婿のダリルが拳銃で自殺したらしいというのだ。早速かけつけたキャロラスは、ベッドの上に血まみれで横たわるダリルを確認。しかし、自殺と判断するには不可解な点もあることに気づく。やがて第二の事件が起こり……。

上で書いたとおり本作の売れ行きは非常に気になるところであり、そのためにもまずは中身が重要なのだが、これが期待に違わぬ出来であった。
いつものレオ・ブルースといえばいつものレオ・ブルースである。謎解きを中心に据えた本格ミステリではあるのだが、大きなトリックには拘らず伏線の妙で見せる。しかも古き良き英国本格ミステリの体をとりながら、実はコードを微妙に外した通好みの落としどころは正に絶品。
本作もブルースの真価を知らない人が読めば、最初はどうかと思うに違いない。周囲からあまり好ましくないと思われている人物が死んだことで、殺人事件という緊迫感すら乏しく、おまけに主人公の探偵趣味まで揶揄される始末。
また第二の事件では、ストーリー上の登場人物たちは混迷を極めるものの、読者には意外とわかりやすい手がかりとなる。
しかし、そういう流れを踏まえたうえで最終的に提示される真相は、正に斜め上を行く。この発想の飛躍に感心できるかどうかが、レオ・ブルースを気に入るかどうかのリトマス試験紙にもなっているのだ。
唯一の泣きどころは地味なストーリー展開というあたりだが、これにしたって上質なユーモアが退屈さから救ってくれる。シリーズキャラクターのやりとりは一冊だけではピンと来ないかも知れないが、読めば読むほど味が出る類のものだ。
ま、自分で書いていてもずいぶんな持ち上げようだが、面白いのだからしょうがない。正味な話、『結末のない事件』とか『死の扉』とかの傑作には及ばないけれども(苦笑)、クラシックミステリの醍醐味は十分に満喫できる一冊。
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Comments
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読みました。
これは傑作ですね! 『骨と髪』は未読ですが、『ジャックは絞首台に!』は勿論『死の扉』よりりも上とみます(そういえば三作とも真相で明かされる意外なプロットで勝負していますね)。
プロットはカーのアレなんですけど(って書いても絶対にわからないのでネタバレにならないでしょう)、全く気付きませんでした。探偵がラストで言わせている対称性の美しさ、著者が自画自賛するだけのことはあります。
一方、解説で触れられている動機云々が、何の作品のことなのかわからなくて悔しい思いをしております。
本書がどのぐらい売れたかわかりませんが、今後もブルース作品をどしどし出して欲しいものです。
Posted at 03:23 on 06 09, 2016 by くさのま
くさのまさん
いやあ、これは本当に傑作ですね。もちろん良い作品だから訳されているのでしょうが、それにしても基本ハズレがないというか、評価も毎回高いですよね。
しかしながら、なぜかわが国では人気が出ない。まったくもって不思議です。
Posted at 23:13 on 06 09, 2016 by sugata