- Date: Sat 29 11 2014
- Category: 海外作家 ルメートル(ピエール)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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ピエール・ルメートル『その女アレックス』(文春文庫)
周囲に翻訳ミステリの話をできる人間はあまりいないのだけれど、先日、そんな数少ない翻訳ミステリ好きの知人と酒を飲んだ。そのとき勧められたのが、ピエール・ルメートルの『その女アレックス』。
ネット上ではけっこう評判が良いようだったので、もともと少し気にはなっていたのだが、数日後に今度は『ミステリマガジン』の「ミステリが読みたい!2015年版」を読むと、これがなんと堂々の一位である。
こうなると一気にネット上で感想やら書評やらが溢れかえり、その分ネタバレに遭遇する危険度も大幅アップする。しかもこの後に『このミステリーがすごい』も控えている。ネタバレ記事については過去に痛い思いも何度かしているので、仕方なく(笑)さっさと読むことにした。
※ちなみに管理人もネタバレにはかなり気をつけるつもりではありますが、本作に関してはなかなか難しいところがあります。以下を読まれる方は、自己責任でお願いいたします。
アレックスという女性が突如パリの路上で男に誘拐された。男の狙いはわからず、ただ「おまえがくたばるのを見たい」とだけ伝え、アレックスを身動きすらほとんどとれない狭い檻に幽閉してしまう。
一方、カミーユ・ヴェルーヴェン警部を班長とするチームは、目撃者の話から男とアレックスの行方を一歩ずつ追ってゆくが……。

うむ、確かに面白い。世間で評判になるのもむべなるかな。
魅力は大きく二つあると思う。ひとつは構成の妙であり、話題になっている大きな理由もおそらくこちらの方であろう。
本作は三部構成になっているのだが、第一部では上に書いたように誘拐監禁ものとして幕を開ける。しかし、実はこれがほんの導入でしかない。その最初の事件は、実は全体のなかの表層でしかなかったことが、第二部で明らかになるのである。しかも、それが一度では終わらず、第三部でも同様の趣向を凝らしてくる。
ストーリーに対する予想、事件の真相に対する推理、登場人物への感情移入など、読者は読書を通じてさまざまなアプローチをかけているわけだが、それを思い切りよく裏切ってみせるアイディアは単純に見事だ。
こういうミステリのコード自体をいじってみせるというアイディアはもちろん本作が初めてではないけれど、本格とかではなくサスペンス小説でこれをやってみせたこと、アレックスという素材のインパクトがあることで、非常に効果的だったのだろう。
もうひとつの魅力は優れた警察小説としても成立していること。
本作においてはアレックスという存在が大きすぎるので、どうしてもサイコサスペンスという側面が強調されてしまいがちだが、実はもともと本作はカミーユ・ヴェルーヴェン警部を主人公とするシリーズの一冊。
ほかにもル・グエン、ルイ、アルマンという個性的な面々の刑事が登場し、チームによる活躍が見どころである。お約束といえばお約束だが、主人公のカミーユが抱える問題、上司との軋轢、強引な捜査、チームの結束など諸々がガッツリと盛り込まれており、満足度は高い。
少々、キャラクターを作りすぎの嫌いがあって、ややもするとリアリティに欠ける場面もあるのだが、警察小説というと地味なものが多いだけに、たまにはこういうシリーズがあってもいいだろう。英米や北欧の警察小説とはまたひと味違った味わいで悪くない。
ちなみに著者のピエール・ルメートルの邦訳は、他にノンシリーズ『死のドレスを花婿に』が一冊ある。こちらも構成に一工夫あるような作品らしく気にはなるが、やはり未訳のカミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズをまずは読んでみたいものだ。
既に本国では五冊刊行されているらしいので、文春さんにはぜひ一作目から順に出してくれることを望む。
ネット上ではけっこう評判が良いようだったので、もともと少し気にはなっていたのだが、数日後に今度は『ミステリマガジン』の「ミステリが読みたい!2015年版」を読むと、これがなんと堂々の一位である。
こうなると一気にネット上で感想やら書評やらが溢れかえり、その分ネタバレに遭遇する危険度も大幅アップする。しかもこの後に『このミステリーがすごい』も控えている。ネタバレ記事については過去に痛い思いも何度かしているので、仕方なく(笑)さっさと読むことにした。
※ちなみに管理人もネタバレにはかなり気をつけるつもりではありますが、本作に関してはなかなか難しいところがあります。以下を読まれる方は、自己責任でお願いいたします。
アレックスという女性が突如パリの路上で男に誘拐された。男の狙いはわからず、ただ「おまえがくたばるのを見たい」とだけ伝え、アレックスを身動きすらほとんどとれない狭い檻に幽閉してしまう。
一方、カミーユ・ヴェルーヴェン警部を班長とするチームは、目撃者の話から男とアレックスの行方を一歩ずつ追ってゆくが……。

うむ、確かに面白い。世間で評判になるのもむべなるかな。
魅力は大きく二つあると思う。ひとつは構成の妙であり、話題になっている大きな理由もおそらくこちらの方であろう。
本作は三部構成になっているのだが、第一部では上に書いたように誘拐監禁ものとして幕を開ける。しかし、実はこれがほんの導入でしかない。その最初の事件は、実は全体のなかの表層でしかなかったことが、第二部で明らかになるのである。しかも、それが一度では終わらず、第三部でも同様の趣向を凝らしてくる。
ストーリーに対する予想、事件の真相に対する推理、登場人物への感情移入など、読者は読書を通じてさまざまなアプローチをかけているわけだが、それを思い切りよく裏切ってみせるアイディアは単純に見事だ。
こういうミステリのコード自体をいじってみせるというアイディアはもちろん本作が初めてではないけれど、本格とかではなくサスペンス小説でこれをやってみせたこと、アレックスという素材のインパクトがあることで、非常に効果的だったのだろう。
もうひとつの魅力は優れた警察小説としても成立していること。
本作においてはアレックスという存在が大きすぎるので、どうしてもサイコサスペンスという側面が強調されてしまいがちだが、実はもともと本作はカミーユ・ヴェルーヴェン警部を主人公とするシリーズの一冊。
ほかにもル・グエン、ルイ、アルマンという個性的な面々の刑事が登場し、チームによる活躍が見どころである。お約束といえばお約束だが、主人公のカミーユが抱える問題、上司との軋轢、強引な捜査、チームの結束など諸々がガッツリと盛り込まれており、満足度は高い。
少々、キャラクターを作りすぎの嫌いがあって、ややもするとリアリティに欠ける場面もあるのだが、警察小説というと地味なものが多いだけに、たまにはこういうシリーズがあってもいいだろう。英米や北欧の警察小説とはまたひと味違った味わいで悪くない。
ちなみに著者のピエール・ルメートルの邦訳は、他にノンシリーズ『死のドレスを花婿に』が一冊ある。こちらも構成に一工夫あるような作品らしく気にはなるが、やはり未訳のカミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズをまずは読んでみたいものだ。
既に本国では五冊刊行されているらしいので、文春さんにはぜひ一作目から順に出してくれることを望む。
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こういうミステリのお約束ごとを逆手に取ったミステリは楽しいですよね。ミステリ好きほど騙されやすいというか。