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橘外男『ナリン殿下への回想』(現代教養文庫)
橘外男の『ナリン殿下への回想』を読む。先月読んだ『死の蔭探検記』同様、現代教養文庫から出た橘外男傑作選の第二巻。まずは収録作。
「ナリン殿下への回想」
「蒲団」
「聖コルソ島復讐奇譚」
「マトモッソ渓谷」
「令嬢エミーラの日記」
「雪原に旅する男」

中央書院から刊行された『橘外男ワンダーランド』全六巻はテーマ別の短編集だったが、現代教養文庫版の傑作選は、それぞれに著者の魅力をまんべんなく収録している。本書でもユーモアものから秘境もの、怪談となかなか幅広い。
例によって熱にうなされているかのような独特の饒舌体だが、秘境ものに限らず静かなタイプの作品であっても意外にマッチしているのが面白い。もちろんまったく同じ文体というわけではなく、語り口はそれなりに変えているのだが、その"くどさ"というか"しつこさ”は共通のものだ。
表題作の「ナリン殿下への回想」は第二次世界大戦直前という緊迫した状況下が舞台。インドの若き殿下と売れない作家の奇妙な友情を描いた作品で、ノリとしてはドタバタのユーモアものだが、戦争の影が全編を覆い、最後にしみじみさせるところが著者ならでは。
「蒲団」はイチ押し。この怖さは絶品である。「ナリン殿下への回想」を読んだ後に読むと、よけい橘外男の懐の深さが感じられる。
「聖コルソ島復讐奇譚」は秘境ものの一種で、コルソ島という未開の島の娘と結ばれた男の悲惨な恋の行方を描いたゲテモノ作品。後味も悪くて、正直、橘外男がこの作品を通じて何を訴えたかったかは不明(苦笑)。ただ、熱の高さだけは超一級である。
ゲテモノ系なら「マトモッソ渓谷」も負けてはいない。未開地に棲む半獣半人の怪奇な生態を描くが、インパクトはあるもののボリュームがちと物足りないのが惜しい。
こちらも秘境もの「令嬢エミーラの日記」。ジャングルで発見された惨たらしい女性の遺体。それはゴリラを研究するマッドサイエンティストとその娘を襲った悲劇の結果であった。
ゴリラを扱う秘境もののSFや伝奇小説はいくつかあるが、橘外男のはじけっぷりは異常である(苦笑)。
「雪原に旅する男」は一種の愛憎劇だが、珍しく抑えた文体が効果的、だが逆に異邦人が話す威勢のいいべらんめえ口調が気になっていまひとつ集中できず。
ということでいくつかアレなものもあるけれど、全体的には満足できる傑作集である。ただ、ご存じのとおり本書は版元が倒産したことで絶版になっており、古書価もそれなり。ただ作品自体は他のアンソロジーや短編集でも読めるものが多いので、無理に高値で買う必要はないだろう。興味ある方はちくま文庫版の『怪奇探偵小説名作選5 橘外男集 逗子物語』でどうぞ。
「ナリン殿下への回想」
「蒲団」
「聖コルソ島復讐奇譚」
「マトモッソ渓谷」
「令嬢エミーラの日記」
「雪原に旅する男」

中央書院から刊行された『橘外男ワンダーランド』全六巻はテーマ別の短編集だったが、現代教養文庫版の傑作選は、それぞれに著者の魅力をまんべんなく収録している。本書でもユーモアものから秘境もの、怪談となかなか幅広い。
例によって熱にうなされているかのような独特の饒舌体だが、秘境ものに限らず静かなタイプの作品であっても意外にマッチしているのが面白い。もちろんまったく同じ文体というわけではなく、語り口はそれなりに変えているのだが、その"くどさ"というか"しつこさ”は共通のものだ。
表題作の「ナリン殿下への回想」は第二次世界大戦直前という緊迫した状況下が舞台。インドの若き殿下と売れない作家の奇妙な友情を描いた作品で、ノリとしてはドタバタのユーモアものだが、戦争の影が全編を覆い、最後にしみじみさせるところが著者ならでは。
「蒲団」はイチ押し。この怖さは絶品である。「ナリン殿下への回想」を読んだ後に読むと、よけい橘外男の懐の深さが感じられる。
「聖コルソ島復讐奇譚」は秘境ものの一種で、コルソ島という未開の島の娘と結ばれた男の悲惨な恋の行方を描いたゲテモノ作品。後味も悪くて、正直、橘外男がこの作品を通じて何を訴えたかったかは不明(苦笑)。ただ、熱の高さだけは超一級である。
ゲテモノ系なら「マトモッソ渓谷」も負けてはいない。未開地に棲む半獣半人の怪奇な生態を描くが、インパクトはあるもののボリュームがちと物足りないのが惜しい。
こちらも秘境もの「令嬢エミーラの日記」。ジャングルで発見された惨たらしい女性の遺体。それはゴリラを研究するマッドサイエンティストとその娘を襲った悲劇の結果であった。
ゴリラを扱う秘境もののSFや伝奇小説はいくつかあるが、橘外男のはじけっぷりは異常である(苦笑)。
「雪原に旅する男」は一種の愛憎劇だが、珍しく抑えた文体が効果的、だが逆に異邦人が話す威勢のいいべらんめえ口調が気になっていまひとつ集中できず。
ということでいくつかアレなものもあるけれど、全体的には満足できる傑作集である。ただ、ご存じのとおり本書は版元が倒産したことで絶版になっており、古書価もそれなり。ただ作品自体は他のアンソロジーや短編集でも読めるものが多いので、無理に高値で買う必要はないだろう。興味ある方はちくま文庫版の『怪奇探偵小説名作選5 橘外男集 逗子物語』でどうぞ。
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Comments
Edit
いつも楽しく読ませてもらってます!
>>独特の饒舌体
そりゃないわ!! と思いつつも勢いで持ってかれます。
舞台を外国に設定してる作品が多いのは、
少しでも物語をリアルにしようという配慮でしょうか。
でもその肝心の「外国」自体がめっちゃ妖しいという……
最近出てた大坪砂男の本みたいな感じで
手軽に読める文庫の全集が欲しいです。
Posted at 23:00 on 12 09, 2014 by serpent sea
serpent seaさん
なぜわざわざ実話とうたっていたのか、私もまったく意味がまったくわかりませんね(笑)。
>最近出てた大坪砂男の本みたいな感じで
手軽に読める文庫の全集が欲しいです。
おお、全集はいいですね。文庫で出るんなら私も絶対買いますが、いったいどれぐらいのボリュームになるのか気になります。
Posted at 00:44 on 12 10, 2014 by sugata