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『このミステリーがすごい!』編集部/編『このミステリーがすごい!2015年版』(宝島社)

つい先日の『週刊文春』2014年12月11日号「ミステリーベスト10」の記事で、『このミス』までトップ3が一緒になったら嫌だな、なんて話を書いたのだが、これがまあ見事に予感的中。順位までしっかり同じで、思わず腰から砕けてしまった(笑)。
すなわち一位『その女アレックス』、二位『秘密』、三位『ゴーストマン 時限紙幣』である。
その作品がダントツに面白いというのであれば、まあ一位独占はあるかもしれないし、それが『その女アレックス』でも全然かまわないのだが、三位まで一緒というのはどうなんだろうな。
これも前の記事の繰り返しになってしまうが、やはりネットの影響で情報が共有されすぎているのが、最も大きな原因なのだろう。投票者にしても一年間に読む冊数は限られているわけで、当然ながらむやみやたらに読むわけではないだろう。巷で話題になっているもの、出版社がプッシュするものなど、何らかの情報を受けての選択のはずである。
したがって、現在のランキングの多くが得票ポイントで決められている以上、まずは投票者の目に多く触れたものが圧倒的に有利になるのは必然だろう。
それでも本格ミステリ限定だとか、『週刊文春』の権威主義的ベストテンに対するアンチテーゼとか、いろいろと方向性を打ち出していればベストテンにもそれなりのカラーが出て楽しめるのだが、そういう方向性も今ではあまり感じられない。ごくごく普通にベストを出すだけだものなぁ。
普通にやるしかないのなら、せめてベストテンの価値を高めるためにも、該当作品の八割を読んだ者しか投票できないとか、八割が難しいなら責任を持たせる意味で投票者の読んだ本のリストをさらすとか、あるいは加算ポイントではなく投票点のアベレージで競うとか、いろいろ手はあるんだがなぁ。そういう企画はないのかい?
『このミス』の企画記事もここのところ低調だ。
今回の目玉は国内短篇のオールタイムベストテン。まあ、この企画自体の意義は認めるものの、いかんせんオーソドックスすぎる。こういう特集こそ文春あたりに任せて、『このミス』はもっとチャレンジすべきだろう。「ミステリが読みたい!」が雑誌に入ってしまって書籍でのライバルがいなくなったせいか、昨年あたりから急に保守的になった気がする。
とにかくランキングが同じ、企画記事もありきたりではでは『このミス』を買う意味がどんどん薄れてしまう。創刊当時のいかがわしさと熱気をぜひ取り戻してほしいものだ。
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Comments
こんばんは。
バカミスがなくなってしまったのは、とても残念です。昨年同様、ランキングと各社の隠し球だけです。
まあ、27〜8年やって来たわけですから、こんな年もあるんでないかい?と思わず仏心が出てしまいました。来年以降に少しだけ期待を残して…。
あっ、最後の小説はいらんと思っとります。
Posted at 19:37 on 12 18, 2014 by Ksbc
きみやすさん
悪い意味で力の抜けた感じですね。
相変わらず短篇も収録されていますが、よくまあ今年の傑作を紹介する本でいっしょに実作を載せるなぁと、逆に感心してしまいます。
前の記事の続きではないですが、ライバル政党の不在はかなり影響している気がします。
Posted at 05:10 on 12 16, 2014 by sugata
こんばんは。
>とにかくランキングが同じ、企画記事もありきたりではでは『このミス』を買う意味がどんどん薄れてしまう。
本当に、自分の知らない本が、さらっと紹介されている辺りが
一番楽しかった気がします。
企画記事も・・・なんか、今年は特に、力の抜けた感じが強かった気がします。
それでは。
Posted at 19:51 on 12 15, 2014 by きみやす
ポール・ブリッツさん
私がベストテンの企画をやるなら、ある程度一次選考や二次選考とかでふるいに掛けた状態にして、ベスト二十作ぐらいから徹底的にそれらの作品の解析をやって、そのポイントでランキングしてみたいですね(作者が怒るかも知れませんがw)。
もちろん印象批評はご遠慮願って、プロの評論家ならではの圧倒的な解析の方向で。
>オール与党じゃつまらないです。
うまいこといいますね、そう、今年はまるでそんなランキングですよ。
Posted at 01:47 on 12 12, 2014 by sugata
そう考えると、昔の『バカミス』というのは秀逸なネーミングでしたね。
むしろ本を売るのなら、今のようなベストテンではなく、x軸を「お笑い←→まじめ」y軸を「ドラマ重視←→アイデア重視」で座標系を作り、ある一定数の得票をした作品をピックアップし、そのどこに位置するのか、をビジュアル的にあらわしたほうがいいのかもしれません。座標系は複数用意するのもいいでしょう。「ファンタジー←→現実」とか。
そのくらいのドラスティックな改革をしないと、また「文春」だけが生き残った、ということになりかねないような……オール与党じゃつまらないです。
Posted at 01:30 on 12 12, 2014 by ポール・ブリッツ
Ksbcさん
>昨年同様、ランキングと各社の隠し球だけです。
もう私もそのあたりぐらいしか興味がないですねぇ。でも肝心のランキングも今年のようになってしまうと、もう本当に読むところが……。たいていの人は自分のアンテナに引っかからなかったものを求めてこういう本を買うと思うのですが、その期待だけは裏切らないでほしいものです。
Posted at 23:48 on 12 18, 2014 by sugata