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 ムーミン・シリーズの第八作、『ムーミンパパ海へいく』を読む。
 夏頃からムーミンの原作小説を読んできたが、きっかけは今年が著者トーベ・ヤンソンの生誕百周年であったこと、もうひとつは世界観がアニメと小説でかなり異なるということに興味があったからだ。
 実際、これまで七作を読んできて、予想以上に暗く陰のある世界観、エキセントリックな登場人物たちは、これまでアニメでの印象がほとんどだった管理人にとってかなりの目ウロコ本であった。そこに描かれているものや描き方が、明らかに大人の鑑賞を意識しているものばかりだったからだ。
 そして八作目の『ムーミンパパ海へいく』。本書は大人の鑑賞を意識しているというよりは、明らかに大人が読むべき作品となっていた。

 可愛いムーミントロールや優しいムーミンママ、そして素敵な仲間たちに囲まれて暮らす生活もいいけれど、ムーミンパパには平和すぎて少々物足りない。やはり一家のあるじたるもの、プライドと責任を発揮すべき機会と場所が必要である。
 そう決心したムーミンパパは家族とミィ(なんといつの間にかムーミン家の養女になっている)を連れて海を越え、とある小島で灯台守として生きる決心をする。しかし慣れない土地での生活は思った以上に厳しかった……。

 ムーミンパパ海へいく

 これまで読んできたシリーズ中で最も暗いイメージの作品である。ストーリー的にはムーミンパパが完璧な父親像をめざすために悪戦苦闘するという流れだが、そこには家族を守る使命感という、いかにもファンタジー然としたファクターだけでなく、理想と現実のあいだで悩むパパの姿——見栄や虚勢といった生臭い部分を強調しているのが要注目。
 また、ムーミンパパのそうした行動が、結果的に少しずつ家庭の崩壊を招き、その壊れ方を克明に描いているのがなんとも凄まじい。

 例えば家族のためにすることがなくなったムーミンママが、自分自身の自我に入り込んでいくような展開、それに伴うママの人格の変化など、シリーズのファンなら思わず息をのむような描写も多い。
 ムーミンママと言えばシリーズの数多いキャラクターの中でも、とりわけ自分を見失わない強さを持っているキャラクターだ。登場人物たちが様々な事件に遭遇し、その度に愚かさをさらけ出すがママだけは別格。皆が最後に帰るべき家の象徴ともいえる存在なのだ。
 そのムーミンママが自分の描いた絵の中に入っていくシーンは、明らかに彼女自身が帰るべきところを欲しているわけで、ある意味ショッキングである。彼女はムーミンパパを常に立てることを忘れない優しい妻ではあるのだが、明らかにそのツケが回ってきているのである。

 それに比べるとムーミントロールの方はまだ罪がない。彼は家庭の崩壊云々以前に、思春期や独立心が目覚めるべき時期なのである。
 それが父親の愚挙をきっかけにより促されるわけだが、それ以外にもモランや"うみうま"といったキャラクターとの交わりも大きいといえるだろう。ムーミントロールはこれらのキャラクターとの交流を家族に話さないのだが、これも彼らが人間の負や背徳の部分を象徴しているようなキャラクターだからに他ならない。
 彼らとの交流はムーミントロールにとって決してプラスになるわけではないが、大人への一歩としては間違いなく必要なことなのだ。

 こうして望むと望まないとにかかわらず、一家の心は離れてゆくけれど、ラストではいつもどおり希望の調べは流れるのでご安心を。

 とはいえトータルではやはりこの暗さは別格である。七作目まで読んだ段階でも、まさか本書でここまでの物語を読まされるとは予想していなかった。面白さだけなら他の作品で十分だが、ムーミン物語を読む意義は本書にこそあるのかもしれない。
 個人的には文句なくシリーズのイチ押し。
 ただし、シリーズを順番に読むかぎりにおいて。

テーマ:児童文学 - ジャンル:本・雑誌




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