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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

三谷幸喜版『オリエント急行殺人事件』

 録画してあった三谷幸喜版『オリエント急行殺人事件』を一週間遅れで消化。
 ネット上では賛否両論ありすぎて結局世評がどうかよくわからないのだけれど、管理人としてはテレビのミステリドラマとしては十分楽しめた。
 以下、感想となるが、極力注意はするけれども、どうしても構成上ネタバレを含む可能性があるため、『オリエント急行殺人事件』について未読・未見の方はご容赦ください。



 本作の肝は何といっても第一夜と第二夜の二部構成にしたところだろう。
 予備知識のない時点では単に原作を前編後編にしたのかなと思っていたのだが、蓋を開ければこれがなんと原作に沿って作られた第一夜、そして犯行の裏側を犯人側から描いた第二夜という二段構え。当然、第二夜の方は三谷幸喜完全オリジナルとなるわけで、もともと豪華キャストを配しているドラマだけに、その活躍を倍楽しめる仕組みはなかなかうまいやり方と言えるだろう。
 
 第一夜に関しては、原作はもちろん映画版をかなり意識した作りで、映画で見たような構図があちらこちらで再現されているのが楽しい。シナリオについてもかなり映画版を踏襲しており、クリスティファンからすると悪くないのだが、三谷ファンにはさてどうだったのだろう。黄金期の本格ミステリとしてみれば中盤の聞き込みシーンなどはけっこうな見どころなのだが、三谷ファンにはやや冗長で退屈に思われた可能性もあるわけで。
 とはいえ真相はミステリファンならずとも驚きの内容だから、少なくとも第一夜に関しては、三谷幸喜もそれほど無茶はしなくて済んだというところだろう。

 問題はオリジナルの第二夜か。まあ、犯行の裏側を描くといっても、すでに結末が決まっているわけで、料理できる範囲は限られている。おそらく脚本の制限もいろいろとあるだろうし、無い物ねだりの気もするのだが、やはり三谷脚本にしては意外にまっとうというか大人しめというか。
 三谷幸喜が本当にやりたかったのはこちらだろうし、もう少し弾けても良かったのではないかというのが正直なところだ。ただし、決してつまらないわけではなく、こちらも普通には楽しめた。共犯者が増えていく件などはけっこうな見せ場であろう。

 ただ、シナリオも要注目ではあったのだが、本作で一番の話題になっていたのはキャストである。特に野村萬斎が演じる勝呂武尊(すぐろたける)。
 あまりに独特で過剰な演技に賛否両論だったが、もともとポアロ自体がそういう個性的なキャラクターとしてクリスティに創造されたのであり、映画版でもそれを踏襲している。だから今更、野村萬斎が非難されるのは筋違いだと思うのだが、まあ、予備知識なしで客観的に見れば、確かにあのキャラ造形はすぐに受け入れられんよなぁ(笑)。
 むしろ管理人などは、若い役者さんとベテランの役者さんの力量に差がありすぎて、そちらを見ている方がやや辛かった(苦笑)。

 ともあれこの手のドラマには常に最悪を予想してしまうので、今回は比較的楽しめたのが嬉しい誤算。ミステリ好きを公言している三谷幸喜だけに、従来のクリスティファンに相当気を配りつつ、可能な範囲で挑戦しているのはすごく伝わってきた。
 これならもう一本、何か別のミステリをやってみても良いのではないかな。

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Comments
 
少佐さん

やはり本格というスタイルでは映像的に地味になりがちですから、なかなか企画が通りにくいんでしょうね。サスペンスやハードボイルドなどは動きもあるし、やはり映像向きという気がします。
フランスミステリなんかは密かに二時間ドラマになっていたりするのも多いんですよね。そういや目暮警部なんてのもありましたな(笑)
 
ファイロ・ヴァンスはさすがに頭に浮かびませんでした。彼の全盛期はアメリカで映画化されてだいぶ受けてたみたいですからアリはアリなのかもしれませんが…。
さすがにクリスティだからスポンサーも付いたってところがあるので、ヴァン・ダインじゃ企画通らないんじゃないかなあw
古典ミステリー映画でクリスティ以外にメジャーなのはもう「配達されない三通の手紙」ぐらいですかね。
 
Sphereさん

>ポアロよりファイロ・ヴァンスの方がいいかもしれませんね。

ああ、キャラ的にもビジュアル的にも、これはかなりいいところを突いている気がします。
ただ、問題は原作があまり映像的に映えないところでしょうか(笑)。
 
ようやく今日見終わりました。
ちょっと長いけど、私もわりと肯定派ですね〜。
野村萬斎の勝呂は浮いてたけど、まさにポアロそのものでした(^^;;
でもせっかくのイケメンを生かすためには、ポアロよりファイロ・ヴァンスの方がいいかもしれませんね。
 
少佐さん

朝日新聞の連載を読んでいてもミステリーについてはときどき言及していますし、間違いなくミステリファンだとは思います。
ポアロのシリーズ化もいいですし、あの雰囲気なら思い来てヴァン・ダインとかやってもらえると、かなり凄いものができそうな気はするんですが(笑)。
 
ブログに書いたように私もかなり肯定派です。三谷幸喜はもともと古畑任三郎とかミステリーシリーズやってたし、私たしか昔に三谷脚本唐沢寿明主演の二重人格をテーマにしたミステリー劇を見に行った記憶があります(のはずw)。今後もミステリー劇は期待できるんじゃないですかね。
 
makiさん

犯行の様子をドタバタで見せるのは三谷版の真骨頂のはずなんで、そういう面ではちょっと物足りなさがありますね。ただ、三谷氏といえどもこれは苦労したのだろうと推測されます。
 
第二夜、もっとはじけてほしかった、というのはわたしも思いました。もちろん見ている間は演技の力もあり
「なんで燃やすかな」
「燃やしたく……なっちゃったんですよ!」
といったコミカルな脚本が楽しかったのですが、全体を通してみると、この程度の膨らませ方だったら必要なかったのでは、と。
「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」くらいのを期待してしまったんですよね…

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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