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 ニコラス・ブレイクの『短刀を忍ばせ微笑む者』を読む。ナイジェル・ストレンジウェイズのシリーズではあるが、主人公はナイジェルではなく奥さんのジョージア。しかも内容も本格ミステリではなく、スパイスリラーという異色作である。

 こんな話。都会の喧騒を逃れ、田舎に引っ越してきたストレンジウェイズ夫妻は、ある日、自宅の近くでロケットを拾う。その中にはE・Bと記された英国国旗と美しい女性の写真が入っていた。数日後、近所に住むケストン少佐がストレンジウェイズ家を訪ね、それは自分のものだといい、ロケット持ち帰ってしまう。
 その怪しげな行動に納得がいかないナイジェルは密かに調査を始め、ケストン少佐が秘密組織に関わっている可能性を突き止める。やがてナイジェルの伯父、ロンドン警視庁のジョン・ストレンジウェイズもその組織を追っていることが明らかになり、ジョージアは潜入捜査の協力を依頼されるが……。

 短刀を忍ばせ微笑む者

 ニコラス・ブレイクがスパイスリラーを書いていたという事実は確かに興味深いけれど、実は当時のミステリ作家、とりわけ英国の作家はけっこうな頻度でスパイ物に手を染めているので、それほどの驚きはない。クリスティ然りクロフツ然りアリンガム然り。
 これは英国の冒険小説好きなお国柄というのもあるだろうし、二度の大戦があったことやファシズムの台頭など、当時の国際情勢が大きく影響していることもあるだろう。年齢や体験による程度の差はあれども、当時の作家にとって避けて通れないテーマだったと考えるのが妥当ではないか。

 本作もナチスの台頭による恐怖・危機感を打ち出した作品であることは推測できるが、これまた英国の探偵作家らしいというべきか、その恐怖をストレートに前面に出すことをよしとせず、あくまで上質の娯楽読み物としてまとめているのが特徴である。それが大きく表れているのが、テンポの良い活劇シーンであったり、ユーモアの部分となる。
 ただ、テーマのシリアスさに比べ、これらの要素がどうにも過剰に感じられる。結局はエンターテインメントだからある程度は必要な演出だと思うけれど、ブレイクが真剣にファシズムに対する危機感を喚起したかったのなら、もう少し導入や展開にはやりようがあったのではないか。ジョージアが潜入捜査に乗り出す必然性、ナイジェルの関与の仕方もあまりに現実的ではない。
 結果的に、可愛いヒロインの冒険を楽しむ小説という印象ばかりが強くなって、やや消化不良。ユーモアに対する感性の違いもあるのだろうけれど、ううむ。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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