- Date: Sun 05 04 2015
- Category: アンソロジー・合作 せらび書房
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藤田知浩/編『外地探偵小説集 上海篇』(せらび書房)
藤田知浩/編『外地探偵小説集 上海篇』を読む。かつて日本で外地と呼ばれた場所を舞台にした探偵小説アンソロジーで、同じ編者による「満洲篇」に続く第二弾である。
日本が植民地化していた満州と異なり、上海はもともとヨーロッパの列強による干渉があった。アヘン戦争の結果、条約港として開港した上海では、イギリスやフランスが租界を形成し、その後、アメリカや日本が加わっていくことになる。その過程のなかで上海は中国、いや世界でも極めて国際的かつ混沌とした都市へと変貌していった。本書はそんな魔界都市“上海”を舞台とした探偵小説を集めている。

松本泰 「詐欺師」
米田華舡 「掠奪結婚者の死」
白須賀六郎 「九人目の殺人」
木村荘十 「国際小説 上海」
竹村猛児 「盲腸炎の患者」
冬村温 「赤靴をはいたリル」
戸板康二 「ヘレン・テレスの家」
南條範夫 「変貌」
生島治郎 「鉄の棺」
何はともあれこのラインナップの凄まじさ。「満洲篇」以上にマイナーどころが並んでおり、半分近くが読んだことのない作家である。
まあ、この手の企画物の常として、探偵小説としての出来には少々目を瞑るしかないのだが(苦笑)、それでも読後の満足感はなかなかのものだ。
もちろんその満足感は上海という都市の魅力によるところが大きい。単なる都市の描写が興味深いということだけでなく、街そのものが醸し出す怪しさが堪らないのである。扱われる事件も上海ならではというか、単なる犯罪のように見えても、その背後には何らかの陰謀が隠されているなど、プロットや設定も国際都市ならではの感がある。
探偵小説としての出来には少々目を瞑るしかない、と先に書いたが、それでも印象に残った作品は少なくない。
まずは白須賀六郎 「九人目の殺人」。七人のダンスマニアが連続して殺されるという事件がのっけから語られ、どうやって収拾するのかそちらが心配だったが(笑)、サスペンスとしては悪くない。展開は読めるけれど、ラストはちょっとした衝撃である。
木村荘十「国際小説 上海」は探偵と犯罪組織のボスの駆け引きが、ホームズvsルパンや明智vs二十面相という構造を連想させて楽しい。
竹村猛児 「盲腸炎の患者」はミステリ的にも医学的にもどうなのかという気はするが、この手のネタが既にこの時代にあったのかという、ちょっとしたトリビアとして興味深かった。
戸板康二「ヘレン・テレスの家」は謎解き系、 生島治郎「鉄の棺」はハードボイルド系と、それぞれ持ち味は異なれど、さすがに安心して読める。
ちなみに巻頭には当時の上海の地図をはじめ、風俗や犯罪についての解説が掲載されている。いわば当時の上海の予習というわけである。これを最初に読んでおくだけで、収録作に出てくる特殊な社会状況が頭に入りやすく、非常に便利であった。作品解説も充実しており、そういう意味でも本書の編集方針は実に素晴らしい。
日本が植民地化していた満州と異なり、上海はもともとヨーロッパの列強による干渉があった。アヘン戦争の結果、条約港として開港した上海では、イギリスやフランスが租界を形成し、その後、アメリカや日本が加わっていくことになる。その過程のなかで上海は中国、いや世界でも極めて国際的かつ混沌とした都市へと変貌していった。本書はそんな魔界都市“上海”を舞台とした探偵小説を集めている。

松本泰 「詐欺師」
米田華舡 「掠奪結婚者の死」
白須賀六郎 「九人目の殺人」
木村荘十 「国際小説 上海」
竹村猛児 「盲腸炎の患者」
冬村温 「赤靴をはいたリル」
戸板康二 「ヘレン・テレスの家」
南條範夫 「変貌」
生島治郎 「鉄の棺」
何はともあれこのラインナップの凄まじさ。「満洲篇」以上にマイナーどころが並んでおり、半分近くが読んだことのない作家である。
まあ、この手の企画物の常として、探偵小説としての出来には少々目を瞑るしかないのだが(苦笑)、それでも読後の満足感はなかなかのものだ。
もちろんその満足感は上海という都市の魅力によるところが大きい。単なる都市の描写が興味深いということだけでなく、街そのものが醸し出す怪しさが堪らないのである。扱われる事件も上海ならではというか、単なる犯罪のように見えても、その背後には何らかの陰謀が隠されているなど、プロットや設定も国際都市ならではの感がある。
探偵小説としての出来には少々目を瞑るしかない、と先に書いたが、それでも印象に残った作品は少なくない。
まずは白須賀六郎 「九人目の殺人」。七人のダンスマニアが連続して殺されるという事件がのっけから語られ、どうやって収拾するのかそちらが心配だったが(笑)、サスペンスとしては悪くない。展開は読めるけれど、ラストはちょっとした衝撃である。
木村荘十「国際小説 上海」は探偵と犯罪組織のボスの駆け引きが、ホームズvsルパンや明智vs二十面相という構造を連想させて楽しい。
竹村猛児 「盲腸炎の患者」はミステリ的にも医学的にもどうなのかという気はするが、この手のネタが既にこの時代にあったのかという、ちょっとしたトリビアとして興味深かった。
戸板康二「ヘレン・テレスの家」は謎解き系、 生島治郎「鉄の棺」はハードボイルド系と、それぞれ持ち味は異なれど、さすがに安心して読める。
ちなみに巻頭には当時の上海の地図をはじめ、風俗や犯罪についての解説が掲載されている。いわば当時の上海の予習というわけである。これを最初に読んでおくだけで、収録作に出てくる特殊な社会状況が頭に入りやすく、非常に便利であった。作品解説も充実しており、そういう意味でも本書の編集方針は実に素晴らしい。
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コメントありがとうございます。
木村荘十ですが、本書の解説でも満州と南方に行った記録は確認できたそうですが、おっしゃるとおり上海については不明だそうです。ただ、他にも上海やアジアを舞台にした小説があるそうで、行ってないとすれば、その知識をどこから仕入れたかが不思議ですね。今ならネットで調べることも簡単なんですけどね。
ちなみに英国留学のある松本泰も、上海への渡航経験があるかどうか不明なようです。
この時代の娯楽小説ですから、わずかな記録や人から聞いた話を材料にして、あとは想像力をフルに発揮して物語をつくった可能性も否定できませんね。