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 論創ミステリ叢書から『西尾正探偵小説選I』を読む。新刊も読みたいのだけれど、判型が変わる前の読み残しもまだけっこうあるので、どこかの政治家じゃないけれど、"粛々と"消化に努める。

 西尾正は戦前から戦後にかけて活躍した変格派の探偵作家である。論創ミステリ叢書に入るだけあって作品数はそれほど多くなく、単行本にまとめられるのはこれが初というレア作家だ。
 とはいえアンソロジー等ではときおり名前を目にすることもあるし、それなりにインパクトのある作家さんだなというのがこれまでの印象である。そもそもが乱歩に傾倒していたようで、その作風は恐怖、幻想、エログロがメイン。ある意味、当時の王道であり、長年積んでおいていうのもなんだが、まずはこうしてまとめて読めるようになったことを喜びたい。

 西尾正探偵小説選I

「陳情書」
「海よ、罪つくりな奴!」
「骸骨」
「土蔵」
「打球棒殺人事件」
「白線の中の道化」
「床屋の二階」
「青い鴉」
「奎子の場合」
「海蛇」
「線路の上」
「めつかち」
「放浪作家の冒険」

 収録作は以上。I巻の本書では戦前に書かれた作品が収められている(ちなみに続刊のII巻では戦後作品が中心のようだ)。
 西尾正についてもう少し触れておくと、彼は「亀の子タワシ」を製造したあの西尾商店の親族らしい(といっても今の若い人は知らないか)。早い話が裕福な家庭のぼんぼんであり、高い教育も受け、慶応大学に進んでいる。しかし若い頃から病弱で、療養のため鎌倉にも転居したらしいが、結局四十二歳という若さで他界した。鎌倉を舞台にした作品や病んだ登場人物が多いのも、こうした彼の経歴によるところが大きいのだろう。
 また、探偵小説には若い頃から親しんでいたようで、デビュー前から探偵小説誌に投稿したりもしている。ちなみに本書にはその投稿をはじめとしたエッセイ等も多く収録されており、こちらも興味深い。上でも書いたがとりわけ乱歩には強い影響を受けたようで、乱歩礼讃的な内容も多い。

 個々の作品に目をやると、療養生活が長かったせいか、病床でうなされて書いたかのような作品が目白押し。一口に幻想小説や怪奇小説といってもいろいろなタイプがあるが、西尾正のそれはとにかく陰鬱でねちっこい(褒めてます)。
 また、概ね語りに執着しているというか、主人公の異常心理やそれから派生する心象風景などが強烈で、その語りに酔うのがオススメかと思う。プロットやストーリーは破綻しているとまでは言わないが、あまり気にせず書いているような節があり、粗すぎたり、逆にやりすぎたりと完成度は低めである。やはり語りそのものに注目するのが吉かと。

 そういう意味では、犬を殺すシーンが強烈な「骸骨」、女と海蛇のイメージがリンクする「海蛇」、鴉を邪悪な何かとして象徴する「青い鴉」などは、とりわけこってり感が強く、著者の嗜好性が色濃く出ていて読みごたえがある。
 「打球棒殺人事件」と「白線の中の道化」は、どちらも本格風味が入っており、当時の大学野球を扱っているという異色作。その点においてはどちらも読めて良かった作品なのだが、正直、無理矢理な設定と展開で探偵小説としては低調である。そもそも野球のボールが当たっただけで肺結核になるというのがさっぱりわからん(笑)。

 まあ、いろいろ粗もあるのだが、論創ミステリ叢書のなかでは比較的満足できる一冊といえるだろう。変格好き、という縛りは入れたいけれど(笑)。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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