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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

霜井蒼『アガサ・クリスティー完全攻略』(講談社)

 霜井蒼の『アガサ・クリスティー完全攻略』を読む。クリスティーの全著作について解説した評論集で、もとになったのはインターネットのサイト「翻訳ミステリー大賞シンジケート」での連載である。リアルタイムでもちょくちょく読んでおり、当時から面白い企画だとは思っていたが、こうして一冊にまとまると本ならではの手軽さや利便性も増してさらに好印象。

 アガサ・クリスティー完全攻略

 本書の魅力はいくつかあるのだが、まずはクリスティーの全著作を残らず解説しているところだろう。
 そんなの当たり前だろうと言うなかれ。すべての著作を解説するといっても、クリスティーとなると百冊あまりの作品があるわけで、そうそう話は簡単ではない。つまらない作品を取り上げても仕方ないとか、全作品を取り上げる意義などの面もあるだろうし、商業的な意味合いもあるだろう。ハードルは意外に高いのだ。
 だが作家についてのガイドブックを作るなら、全作を紹介するのは本来最低限の役目である。それをきちんと実践したクリスティーの評論が出た。その意義はとてつもなく大きいと思う。

 著者がこの企画を思い立った動機が「はじめに」で語られている。
 ミステリ評論家でありながら著名な七冊ぐらいしかクリスティーを読んでいなかった著者は、世間でクリスティーは面白いと言われながら、その魅力について語られるとき、紹介される作品はほとんどが決まっていることに疑問を抱いたという。百冊あまりの著作はどんなタイプのミステリなのか、どういうふうに面白いのか、傑作はどの程度あるのか等々。それを明快に教えてくれる本はなかった。そこで自らクリスティーの魅力を解明すべく取りかかったという。
 書評家ならではの使命感といってもいいのだが、まあ、ビジネスとして需要があるかどうかが肝心で、これもネットありきで進んだ企画だから良かったのだろう。

 本書の魅力についてもうひとつ。上に書いたとおり元がインターネットでの連載なのだが、本書での収録順もこの連載時のままにしてあるということ。
 これはどういうことかというと、本作が作品ごとの評論として読めるのは当然として、著者自身がクリスティーに対する理解を深めていく過程を読み取れるということでもある。いわゆる”気づき”が一冊の中に反映される評論、これは素敵ではないですか。

 結論。個々の作品ごとでは意見の分かれるところもあるのだけれど、トータルでは文句をつけるのが申し訳ないくらいの良書である。管理人もクリスティーは半分ぐらいしか読んでないので、これを機にあらためて最初から読み直したい気分である。


Comments
 
ねこのきもちさん

リンクはフリーですので、どうぞご自由に。
ブログも拝見しましたが、いまどき珍しいクラシックミステリ中心なんですね(人のことはいえませんが)。数少ないお仲間ということになりますので、ぜひ頑張ってください。

『アガサ・クリスティ完全攻略』ですが、まだ二年ほど前の本なのに、確かにけっこう品切れになってますね。評判になった本なのでいずれ文庫にもなると思いますし、重版もあるんではないでしょうか。
 
Google検索から辿りつきました。
突然の訪問失礼します。

私も恥ずかしながら、最近ミステリ小説にハマりだしました。そのキッカケが昨年放送の三谷幸喜脚本の『オリエント急行殺人事件』でした!
それからアガサ・クリスティのミステリ蒐集に熱が入り、勢いでブログまで開設してしまう始末です(笑)

もしよろしければ、私の拙いブログにsugata様のブログのリンクを貼らせて頂ければ幸いです!

ちなみに霜月蒼氏の『アガサ・クリスティ完全攻略』は、どこの書店に行っても置いてなくて、Amazonでもかなりの高額になっているため、未だに手に入っていません^^;羨ましいかぎりです…
 
根岸鴨さん

良書ですね。私もそろそろクリスティ全作読破を真剣に考えたくなりました。

ただ大賞はどうですかね。過去の受賞作を見ていると、内容はともかくタッチの軽さは評論部門ではマイナスっぽいですからね。個人的にはこういうのが受賞すると、同じタイプの本が出るきっかけにもなるし、ぜひとも取ってもらいたいところではあるんですが。
 
こんにちは。
これは良い評論でしたよね。
出版される前に出来るだけクリスティ読んじゃおうと大量に読んだもんです。
別名義がミステリじゃないので辛いところでしたが、「愛の重さ」というのが気に入りました。
本格ミステリ大賞も取れますかねー?

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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