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梶龍雄『殺人リハーサル』(講談社)
梶龍雄の長篇八作目にあたる『殺人リハーサル』を読む。まずはストーリーから。
芸能週刊誌記者の栗田は今やテレビのワイドショーレポーターも務める売れっ子。そんな彼の元にお互いが駆け出しの頃に懇意にしていた演歌歌手、川村鳥江から連絡が入る。ムショ上がりの松森という男から電話があったことで相談したいというのだ。
栗田には思い当たる節があった。かつて鳥江が売り出し中の頃、刑務所に服役する松森からファンレターが届いたことがあり、栗田はそれを美談に仕上げ、記事として発表したことがあったのだ。しかし、実は栗田の記事は取材を行わない、ほとんどでっちあげの記事だった。
松森の目的は不明だが、相手の素性が素性なだけにこじれると面倒だ。栗田はつい逃げ腰になってしまうが、そんなとき鳥江の自宅に暴漢が入る。鳥江は危ういところで難を逃れることができたものの、犯人は不可能な状況下で消え失せ、捜査は難航する。
果たして犯人は松森なのか、そしてどのように脱出することができたのか。謎が明らかになる間もなく、再び鳥江を狙う事件が発生した……。

世評はそれほどでもないようだが、これはまずまずよくできた本格ミステリである。
本作では鳥江を狙う事件が実は三度も発生する。そのいずれもが犯人消失などについての不可能犯罪を扱っているのがまず楽しい。犯行現場の見取り図が毎度掲載されていたり、アリバイや手がかりの追求についても事件ごとに説明されていたり、きちんとした本格を書こうとする意図も随所にうかがえて好感度大。
機械的なトリックの弱さなどはあるだろうが、プロットやメインのネタも悪くない。今ではやや古さも感じられるし、正直、予想どおりだったところは多いのだけれど(苦笑)、見事にまとめきったという印象だ。
とりわけ終盤の謎解き部分は本格ファンにはたまらない見せ場だろう。なんせ探偵役として一人が謎解きを終えたとたんに、すぐ次の探偵役がそれをくつがえすのである。真相が二転三転するこの展開はなかなか面白い。
芸能界やマスコミという華やかな世界の裏側を見せるというか、それこそワイドショー的な興味を設定として盛り込んだのは、好き嫌いの分かれるところだろう。通俗的に過ぎるというか、当時の芸能マスコミにありがちな軽薄さを前面的に出したキャラクターたちが登場人物の大半を占めるので、生理的に受けつけない人もいそうである。
世評がいまいちなのも、もしかしたらミステリ部分よりそういう設定に原因があるのかもしれない。
ただ、先にも書いたように本格ミステリとしてはツボを押さえた作りで、ラストの意外性もある。拾いものといってはなんだが、古書価もそんなにしないはずなので、お手頃価格で見かけた際はぜひどうぞ。
芸能週刊誌記者の栗田は今やテレビのワイドショーレポーターも務める売れっ子。そんな彼の元にお互いが駆け出しの頃に懇意にしていた演歌歌手、川村鳥江から連絡が入る。ムショ上がりの松森という男から電話があったことで相談したいというのだ。
栗田には思い当たる節があった。かつて鳥江が売り出し中の頃、刑務所に服役する松森からファンレターが届いたことがあり、栗田はそれを美談に仕上げ、記事として発表したことがあったのだ。しかし、実は栗田の記事は取材を行わない、ほとんどでっちあげの記事だった。
松森の目的は不明だが、相手の素性が素性なだけにこじれると面倒だ。栗田はつい逃げ腰になってしまうが、そんなとき鳥江の自宅に暴漢が入る。鳥江は危ういところで難を逃れることができたものの、犯人は不可能な状況下で消え失せ、捜査は難航する。
果たして犯人は松森なのか、そしてどのように脱出することができたのか。謎が明らかになる間もなく、再び鳥江を狙う事件が発生した……。

世評はそれほどでもないようだが、これはまずまずよくできた本格ミステリである。
本作では鳥江を狙う事件が実は三度も発生する。そのいずれもが犯人消失などについての不可能犯罪を扱っているのがまず楽しい。犯行現場の見取り図が毎度掲載されていたり、アリバイや手がかりの追求についても事件ごとに説明されていたり、きちんとした本格を書こうとする意図も随所にうかがえて好感度大。
機械的なトリックの弱さなどはあるだろうが、プロットやメインのネタも悪くない。今ではやや古さも感じられるし、正直、予想どおりだったところは多いのだけれど(苦笑)、見事にまとめきったという印象だ。
とりわけ終盤の謎解き部分は本格ファンにはたまらない見せ場だろう。なんせ探偵役として一人が謎解きを終えたとたんに、すぐ次の探偵役がそれをくつがえすのである。真相が二転三転するこの展開はなかなか面白い。
芸能界やマスコミという華やかな世界の裏側を見せるというか、それこそワイドショー的な興味を設定として盛り込んだのは、好き嫌いの分かれるところだろう。通俗的に過ぎるというか、当時の芸能マスコミにありがちな軽薄さを前面的に出したキャラクターたちが登場人物の大半を占めるので、生理的に受けつけない人もいそうである。
世評がいまいちなのも、もしかしたらミステリ部分よりそういう設定に原因があるのかもしれない。
ただ、先にも書いたように本格ミステリとしてはツボを押さえた作りで、ラストの意外性もある。拾いものといってはなんだが、古書価もそんなにしないはずなので、お手頃価格で見かけた際はぜひどうぞ。
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