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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

高林陽一『本陣殺人事件』

 横溝正史の生んだ名探偵、金田一耕助を演じた俳優は数多いが、まずは石坂浩二をあげる人も多いだろう。1976年に角川映画の第一弾、市川崑監督の手で製作された『犬神家の一族』は当時大人気となり、その後も石坂金田一で『獄門島』や『悪魔の手毬唄』、『女王蜂』などが続々とシリーズ化されていった。
 そんな石坂金田一と同時代に公開されながら、今ではあまり語られることのない金田一映画がある。それが『犬神家の一族』の一年ほど前に公開された『本陣殺人事件』。公開は1975年、監督は高林陽一。金田一耕助を中尾彬が演じた。
 こちらは残念ながらシリーズ化されることもなかったのだが、出来自体はまったく悪くない。どころか管理人的には市川・石坂コンビに勝るとも劣らない出来栄えだと思っている。

 本陣殺人事件

 本作の最大の魅力は、全体を包む耽美的な雰囲気にある。市川崑作品のような派手さはないが、原作にできるだけ忠実に、横溝正史の妖しい世界観を実にうまく再現している。
 惨劇を連想させる赤と寂寥感を感じさせるモノトーンを強調した映像、琴の音色や水車の回る音も実に効果的だし、物悲しい音楽(なんと大林宣彦)も実にマッチしている。それを支える各キャストの重厚で出過ぎない演技もよい。

 ときとして本作の欠点というか違和感としてあげられるのは、時代設定を現代に置き換えていることだろう。結果として中尾彬演じる金田一耕助はアメリカ帰りのヒッピーのような風体で描かれている。今ではこのヒッピースタイルそのものがピンとこない人も多いだろうが、当時はジーパンを履いている金田一なんて、と毛嫌いするファンも多かったという。
 ただ、それから時代がさらに変わっているせいか、いま見るとそれほどの違和感はない。むしろ現代的な金田一が風習やしきたりに縛られた田舎の旧家と絡むことで、より対比が効いている印象である。
 まあ、中尾金田一が本当のヒッピー的なイメージで演じられてしまっては確かに厳しかったかもしれないが、ジーパン姿であってもその性格は実に金田一的で、個人的にはまったく違和感がなかった。

 終盤の謎解き部分がイメージでつないでいくような形なので、いわゆるミステリドラマの爽快感にはやや欠けるところはあるとは思うが、それを差し引いても傑作。

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Comments
 
satoshiさん

私の場合、当時は田舎暮らしで、とてもATGの映画など観る場所はなかったですね。さすがに『犬神家の一族』ぐらいは地元でもやってましたが(苦笑)。
レンタルもまだそれほど多くなくて、東京に来てからはそれこそ名画座に通いつめて、名のみ知る名作をかたっぱしから見まくってました。

田村高廣はおっしゃるとおり適役でした。金田一が鈴子と高廣は似ていると言ったように、一見厳格な高廣が実は幼い部分も抱えているのだという、なんとも複雑な役を見事に演じておりましたね。
 
高林「本陣~」は、大学生時に横浜西口のムービルでリアルタイムで観ました。横溝ブームが始まろうか、という時期でしたが、「幻影城」誌は、すでに刊行されていました。
大変きれいな映像の作品で、あの機械的トリックのビジュアル化は衝撃的でした。中尾彬も、まだ渋い主役を張れるというギリギリの年齢でしたね。石坂金田一を見る前でしたから、ヒッピー風でもちゃんと金田一に見えました。「白昼の死角」の頃は、すでに悪役風になりつつありましたが。また、あの動機には、田村高廣という配役が実にピッタリでした。
二本立てで、併映が「東京エマニエル夫人」というポルノ!!
もちろん、そっちは観ませんでしたが(笑)。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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