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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

マイクル・コナリー『判決破棄(下)』(講談社文庫)

 マイクル・コナリーの『判決破棄』読了。まずはストーリーから。

 二十四年前の少女殺害事件に対し、有罪判決が破棄され、審理の差し戻しが行われた。DNA鑑定によって、被害者のワンピースについていた体液が犯人とは別人のものだと判明したのだ。
 検察側は勝算が薄いとみて、刑事弁護士のミッキー・ハラーに特別検察官を依頼する。しかし、ハラーは服役囚が犯人であることを確信し、あえてその依頼を受ける。条件として出したのは元妻の検事補マギーとロス市警殺人課のハリー・ボッシュをチームに加えることだった……。

 判決破棄(下)

 ミッキー・ハラーとボッシュが共演し、おまけにレイチェル・ウォレスまで特別出演するという派手なキャスト、しかもハラーが冤罪の可能性大という少女殺害事件に検察側として乗り出すというのだから、その設定だけでお腹いっぱいである。
 ところが実際にいただいてみると、中身の方は意外なほどにあっさりめ。法廷では主にハラー、法廷外ではボッシュが中心に物語が進められるが、どちらのパートもいつもに比べると比較的淡白な味わいだ。

 決してつまらないわけではない。検察側と弁護側のジャブの応酬から、終盤の激しい打ち合いまでまったく退屈はしない。最後の決着のつけ方がやや曖昧なところは残念だが、ミステリとしては十分及第点といえるだろう。

 ではその淡白さの理由は何か。これは事件と関係者の関わり方の薄さにあるのではないか。事件が少女殺害であり、ハラーもボッシュも自分の子供がいることから、それぞれ被害者の痛みを自己に重ね合わせてはいるのだが、そこが中途半端なのである。これがボッシュ・シリーズであれば、そういう子供への犯罪に対する徹底的な掘り下げをするところを、表面的に流している感じなのである。
 より極論すると、法廷ものならではのゲーム性で勝負するのか、それとも少女殺害というテーマを訴えたかったのか、作品のテイスト自体が中途半端だった嫌いもある。
 上巻の感想でシリーズ主人公の共演する意味合いみたいなことに触れたのだが、本作は物語の骨格としてはハラーものなのだが、テーマとしてはむしろボッシュものに寄せており、それが結果的にそれぞれのシリーズの良さを逆に弱めていると感じた次第だ。

 繰り返しになるけれど、一作でハラーとボッシュの活躍両方が楽しめる良さはあるし、決してつまらない作品ではない。だが最近のシリーズの中ではやや落ちる方だろう。

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Comments
 
KSBCさん

ここのところの数作中でも一番物足りなかったかも。でもまあ、それもコナリーのレベルが高いからで、この一作だけ見れば普通に面白いんですけどね。
 
こんにちは。
確かに、こじんまりとした感有りですね。
次作に期待します。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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