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 長らくシムノンの入手困難本として知られていた『自由酒場』が、論創社から『紺碧海岸のメグレ』としてお目見え。
 こういう名のみ知られるミステリの場合、実際の中身とのギャップが心配されるところだが、シムノンに関しては常に一定の水準を期待できるから、ほぼそういう心配がないのがいい。もちろんシムノンの場合、本格探偵小説ではなく人間ドラマとしての水準にはなってしまうが、四百作あまりの作品を残した作家でこれはかなり凄いことであろう。

 そういうわけで『紺碧海岸のメグレ』である。
 ヴァカンスの名所として名高いコートダジュール(紺碧海岸)。その中心都市のひとつアンティーブでブラウンという男が殺された。ブラウンは戦争中に軍情報部で仕事をしており、メグレは事件を穏便に片付けるよう上層部から指示を受ける。アンティーブに向かい、捜査を進めるメグレは、やがてブラウンが二重生活を送っていたことを突き止める……。

 紺碧海岸のメグレ

 メグレ・シリーズは事件を通し、犯罪者や被害者の人間模様や心理を細やかに描くところがミソ。孤独や寂寥感、生きることへの疲れが強調され、そのイメージが都会や雨、夜といった舞台装置にも反映されていることが多い。
 そういう意味で本作が面白いのは、舞台がコートダジュールだということ。ヨーロッパでも有数の陽光あふれるヴァカンスの地。それこそ先に書いた都会や夜、雨とは正反対のイメージなのだ。
 ただし避暑地だからといってシムノンは従来のイメージを覆すわけではない。温暖なコートダジュールでの雰囲気から独特の倦怠感を醸し出し、都会と同じようにさまざまな人間の悲哀を見せてくれる。あ、これも結局はいつものメグレ・シリーズなのだと実感。とはいえメグレも絶好調には程遠く、夜の酒場で実があるようなないような聞き込みを繰り返す羽目になるが、こういったメグレの姿も読みどころのひとつだろう。

 例によって驚くような真相はないけれども、被害者の生活がいろいろな意味で二重三重に成り立っているところは面白いし、また、それを明らかにする展開は(ありがちではあるが)相変わらず手堅い。トータルでは悪くない作品である。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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