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イーデン・フィルポッツ『だれがコマドリを殺したのか?』(創元推理文庫)
本日の読了本はイーデン・フィルポッツの『だれがコマドリを殺したのか?』。永らく絶版だったものの復刊だが、管理人が中高生だった頃、もうン十年前のことだが、その頃のミステリのガイドブックには、けっこう本作の紹介が載っていた。見立て殺人、なかでもマザーグースをはじめとする童謡を使ったものは当時のお気に入りだったので、本書もその類かと思いさっそく書店で探したものの、すでにその当時でも絶版になっていてがっかりした記憶がある。
その後入手はできたのだが、結局、復刊で初めて読むことになるというのは、まあ古本あるあるということで。
こんな話。ノートンは富豪である叔父の援助で医学を学び、将来を嘱望されている医師だった。そんなある日、海水浴場で休暇を過ごすノートンの前に、”コマドリ”というあだ名の娘ダイアナが現れ、ひと目で心を奪われる。
ダイアナは姉のマイラ、父のヘンリーと並んで散歩をしていたが、そのときヘンリーが遊歩道から転げ落ちてしまう。あわてて駆けつけて治療にあたったノートンに、ダイアナは深く感謝し、ノートンは一家との親睦を深めていく。
やがてノートンはダイアナと恋に落ちるが、それがすべての悲劇の始まりだった……。

読んだ人ならとっくにご存知だろうが、実は本作、いわゆる見立て殺人とか童謡殺人ものではない。それらしいタイトルがついてはいるが変に期待すると肩透かしは必至である。
ただし、だからといってつまらない作品かといえば、まったくそんなことはなくて、むしろこれはなかなかの良作である。
魅了としては大きく二つ。まずはメイントリックで、やや古さを感じさせるものの、けっこうな大技が使われている。事件の様相を一気にひっくり返してみせる手腕はなかなかのもので、ましてや発表されたのが1924年であるから、これは素直にフィルポッツを褒めたたえるべきだろう。
もうひとつはフィルポッツお得意の心理描写。ここは好みが分かれるところだろうと思うが、事件が起きるまでに総ページ数の3/2近くが費やされており、登場人物たちの様々な恋愛模様や愛憎劇が描かれている。実際、百ページぐらいまでは恋愛小説かと思うぐらいミステリ要素の欠片もなく、これはやっちまったかと焦ったが、そこを抜けると局面が大きく変化しだして徐々に面白くなるのだ。また、この一見退屈と思われる前半にも、実はラストのサプライズの壮大な伏線が織り込まれている。
もともとフィルポッツは敵味方の心理戦を描くのが巧みだが、本作ではその悪役をオープンにしないまま、心理戦を披露しているといった印象か。登場人物の中には当然ながら”犯人”も含まれており、それをイメージしつつ読み進めていくのが本書を楽しむポイントと言えるかもしれない。
しかしながら久々に読んだフィルポッツのミステリ、いいではないか。
『赤毛のレドメイン家』や『闇からの声』だけというイメージもあるし、その二作の価値も昔に比べると落ちてはいるが、昨今の復刻ブームを考えれば、フィルポッツはもう少し紹介されてもいい作家なのかなと思う。作品数が多く、ミステリかどうか読まないと判別できないものも多いと聞くが、そこをなんとか関係者には頑張ってもらって。
その後入手はできたのだが、結局、復刊で初めて読むことになるというのは、まあ古本あるあるということで。
こんな話。ノートンは富豪である叔父の援助で医学を学び、将来を嘱望されている医師だった。そんなある日、海水浴場で休暇を過ごすノートンの前に、”コマドリ”というあだ名の娘ダイアナが現れ、ひと目で心を奪われる。
ダイアナは姉のマイラ、父のヘンリーと並んで散歩をしていたが、そのときヘンリーが遊歩道から転げ落ちてしまう。あわてて駆けつけて治療にあたったノートンに、ダイアナは深く感謝し、ノートンは一家との親睦を深めていく。
やがてノートンはダイアナと恋に落ちるが、それがすべての悲劇の始まりだった……。

読んだ人ならとっくにご存知だろうが、実は本作、いわゆる見立て殺人とか童謡殺人ものではない。それらしいタイトルがついてはいるが変に期待すると肩透かしは必至である。
ただし、だからといってつまらない作品かといえば、まったくそんなことはなくて、むしろこれはなかなかの良作である。
魅了としては大きく二つ。まずはメイントリックで、やや古さを感じさせるものの、けっこうな大技が使われている。事件の様相を一気にひっくり返してみせる手腕はなかなかのもので、ましてや発表されたのが1924年であるから、これは素直にフィルポッツを褒めたたえるべきだろう。
もうひとつはフィルポッツお得意の心理描写。ここは好みが分かれるところだろうと思うが、事件が起きるまでに総ページ数の3/2近くが費やされており、登場人物たちの様々な恋愛模様や愛憎劇が描かれている。実際、百ページぐらいまでは恋愛小説かと思うぐらいミステリ要素の欠片もなく、これはやっちまったかと焦ったが、そこを抜けると局面が大きく変化しだして徐々に面白くなるのだ。また、この一見退屈と思われる前半にも、実はラストのサプライズの壮大な伏線が織り込まれている。
もともとフィルポッツは敵味方の心理戦を描くのが巧みだが、本作ではその悪役をオープンにしないまま、心理戦を披露しているといった印象か。登場人物の中には当然ながら”犯人”も含まれており、それをイメージしつつ読み進めていくのが本書を楽しむポイントと言えるかもしれない。
しかしながら久々に読んだフィルポッツのミステリ、いいではないか。
『赤毛のレドメイン家』や『闇からの声』だけというイメージもあるし、その二作の価値も昔に比べると落ちてはいるが、昨今の復刻ブームを考えれば、フィルポッツはもう少し紹介されてもいい作家なのかなと思う。作品数が多く、ミステリかどうか読まないと判別できないものも多いと聞くが、そこをなんとか関係者には頑張ってもらって。
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Comments
Edit
フィルポッツは、今までの紹介部分とは違うところが私の好みで前半も興味深いです。悪役も満足です。メイントリックにはやられました。
Posted at 05:35 on 07 20, 2015 by M・ケイゾー
M・ケイゾーさん
”今のノートンには知る由もなかった”みたいな文章が入ってくるのはさすがに古さを感じさせましたが、全体的には今でも十分に通用するぐらいのレベルでしたね。見直すといったらアレですが、フィルポッツは他にもこれぐらいの作品は書いていそうな気がします。
Posted at 09:40 on 07 20, 2015 by sugata