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紀田順一郎『乱歩彷徨』(春風社)
今年は江戸川乱歩没後五十周年ということらしく、『ミステリマガジン』やら『ユリイカ』やらで乱歩特集が組まれたりしているが、たまたまタイミングよく 紀田順一郎の『乱歩彷徨』を読み終える。
『乱歩彷徨』は五年ほど前に刊行された江戸川乱歩についての評伝である。装丁の雰囲気からもっと軽い内容を予想していたのだが、これがまあ創作活動のみならず乱歩の評論活動や編集者としての側面、日本探偵小説会のパイオニアとしての業績や私生活にまで踏み込み、立体的に構成された素晴らしい一冊であった。
初めて知る事実もあり、正直、管理人のような浅いレベルのファンはただただ勉強させてもらうだけなのだが、一応レビューなど残しておこう。

言うまでもないことだが、江戸川乱歩は日本の探偵小説を支えてきた最大の功労者だ。
創作においては日本に初めて本格探偵小説を根付かせ、あるいはその奇想によって数々の変格探偵小説を著し、さらには少年もの、そして大人向けのスリラーでも爆発的な人気を博す。また、その過程においては明智小五郎や小林少年、怪人二十面相といった今でも有名な人気キャラクターをも生み出した。
創作だけではない。乱歩は海外ミステリの紹介や評論にも大きな成果を残し、経営の厳しかった探偵雑誌『宝石』をの立て直しにも尽力し、若手の育成にも力を注ぐ。果ては現在の日本推理作家協会の創設にも奮闘するという、正に八面六臂の大活躍であった。
そして何より素晴らしいのは、今なお乱歩の作品が廃れることなく愛読されていることだろう。
ただ、表面的には作家の夢をすべて叶えたように見える乱歩ではあったが、自作に対しては常に厳しい見方をし、その内面は常に葛藤と苦悩の連続であった。また、時の流れは探偵小説にも大きな影響を与え、自らの変容にも迫られたのである。
本書はそんな日本探偵小説会の父・江戸川乱歩の全体像を描こうとした試みだ。
類書は数多いが、本書がそれらと異なるのは、乱歩と同時代を生き、その活躍を生で目にしてきた著者が、時代と共に変化した乱歩に迫ろうとした点にある。記号化されていないできるだけリアルな乱歩像である。
なるほど、確かに乱歩の場合、その業績があまりに幅広いため、どうしてもイメージで済ましてしまうことは多いように思う。例えば本格探偵小説の先駆者としての乱歩、異端作家としての乱歩、児童小説の大御所としての乱歩等々。ただ、それらはどれも乱歩の一面であり、実際にはそういう様々な面が相互に、そして有機的に関連している。また、戦争という大きな外部的影響もある。そういった要素をいったん解きほぐし、あらためて検証することで、作品にどのような影響を与えていったのか、著者は考察していく。この過程が実に面白い。
とりわけ興味深かったのは、戦争との関わりや乱歩に与えた影響。また、戦前戦後にかけて乱歩にも幾度かの危機的状況があったのだが、それを乗り越えた秘密がコードにあるという仮説もなかなか興味深かった。
この評伝を読んでまた乱歩の諸作品を読むべきだと痛感。本作の仮説を確認していくのも楽しそうだし、次読むときはやはり発表順に読んでみたいものだ。
『乱歩彷徨』は五年ほど前に刊行された江戸川乱歩についての評伝である。装丁の雰囲気からもっと軽い内容を予想していたのだが、これがまあ創作活動のみならず乱歩の評論活動や編集者としての側面、日本探偵小説会のパイオニアとしての業績や私生活にまで踏み込み、立体的に構成された素晴らしい一冊であった。
初めて知る事実もあり、正直、管理人のような浅いレベルのファンはただただ勉強させてもらうだけなのだが、一応レビューなど残しておこう。

言うまでもないことだが、江戸川乱歩は日本の探偵小説を支えてきた最大の功労者だ。
創作においては日本に初めて本格探偵小説を根付かせ、あるいはその奇想によって数々の変格探偵小説を著し、さらには少年もの、そして大人向けのスリラーでも爆発的な人気を博す。また、その過程においては明智小五郎や小林少年、怪人二十面相といった今でも有名な人気キャラクターをも生み出した。
創作だけではない。乱歩は海外ミステリの紹介や評論にも大きな成果を残し、経営の厳しかった探偵雑誌『宝石』をの立て直しにも尽力し、若手の育成にも力を注ぐ。果ては現在の日本推理作家協会の創設にも奮闘するという、正に八面六臂の大活躍であった。
そして何より素晴らしいのは、今なお乱歩の作品が廃れることなく愛読されていることだろう。
ただ、表面的には作家の夢をすべて叶えたように見える乱歩ではあったが、自作に対しては常に厳しい見方をし、その内面は常に葛藤と苦悩の連続であった。また、時の流れは探偵小説にも大きな影響を与え、自らの変容にも迫られたのである。
本書はそんな日本探偵小説会の父・江戸川乱歩の全体像を描こうとした試みだ。
類書は数多いが、本書がそれらと異なるのは、乱歩と同時代を生き、その活躍を生で目にしてきた著者が、時代と共に変化した乱歩に迫ろうとした点にある。記号化されていないできるだけリアルな乱歩像である。
なるほど、確かに乱歩の場合、その業績があまりに幅広いため、どうしてもイメージで済ましてしまうことは多いように思う。例えば本格探偵小説の先駆者としての乱歩、異端作家としての乱歩、児童小説の大御所としての乱歩等々。ただ、それらはどれも乱歩の一面であり、実際にはそういう様々な面が相互に、そして有機的に関連している。また、戦争という大きな外部的影響もある。そういった要素をいったん解きほぐし、あらためて検証することで、作品にどのような影響を与えていったのか、著者は考察していく。この過程が実に面白い。
とりわけ興味深かったのは、戦争との関わりや乱歩に与えた影響。また、戦前戦後にかけて乱歩にも幾度かの危機的状況があったのだが、それを乗り越えた秘密がコードにあるという仮説もなかなか興味深かった。
この評伝を読んでまた乱歩の諸作品を読むべきだと痛感。本作の仮説を確認していくのも楽しそうだし、次読むときはやはり発表順に読んでみたいものだ。
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