- Date: Sun 23 08 2015
- Category: 海外作家 リュウ(ケン)
- Community: テーマ "SF小説" ジャンル "本・雑誌"
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ケン・リュウ『紙の動物園』(新ハヤカワSFシリーズ)
ケン・リュウのSF短編集『紙の動物園』を読む。このタイミングで読むといかにもピース又吉氏の推薦にのったようで癪なのだが(苦笑)、本書はそれ以前からSFファンはもとよりミステリものの間でも評判になっていた本。管理人もとっくに買ってはいたのだが、ううむ、まさかこういうブレイクをするとは。まあ、買った本はさっさと読めってことですな。
まずは収録作。
The Paper Menagerie「紙の動物園」
Mono no Aware「もののあはれ」
To the Moon「月へ」
Tying Knots「結縄」
A Brief History of the Trans-Pacific Tunnel「太平洋横断海底トンネル小史」
The Tides「潮汐」
The Bookmaking Habits of Select Species「選抜宇宙種族の本づくり習性」
The Five Elements of the Heart Mind「心智五行」
Altogether Elsewhere, Vast Herds of Reindeer「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」
Ar「円弧」
The Waves「波」
Single-Bit Error「1ビットのエラー」
The Algorithms for Love「愛のアルゴリズム」
The Literomancer「文字占い師」
Good Hunting「良い狩りを」

さて肝心の中身だが、噂に違わぬ面白さであった。
ケン・リュウは中国出身。十一歳のとき家族とともに渡米し、ハーバード大学で文学とコンピュータを学んだ人物で、そういった来歴が作品にもストレートに顕れている。東洋と西洋の文化や宗教観の対立、伝統文化と最先端のテクノロジーの融合や衝突など、いろいろな素材を使ってそのような構図が繰り返し描かれ、そこから普遍的な真理を見出そうとする。
西洋人にとって珍しい(かつ魅力的な)素材を多用していること、また、それらをSFに絡めることで、一見新しさを纏ってはいるが、そのテーマは実際のところ非常にオーソドックスで特に目新しさはない。
ないのだけれど、それらの素材の調合の仕方や語りが絶妙なのである。常に過去と向きあっているような、感傷的でウェットなスタイルは、儚さを感じさせて実に美しい。
印象に残った作品はいろいろあるが、表題作の「紙の動物園」とラストの「良い狩りを」は別格という感じ。この二作が読めただけで元はとれた。
「紙の動物園」は正直、完成度は高くない。紙の動物を操ることの意義が不明瞭だし、ラストの手紙がストレートすぎる。それでもこの作品の持つ精神的な美しさとビジュアル的な美しさは捨てがたい。
「良い狩りを」も前半と後半のギャップが大きく、全体には荒っぽさが漂う。妖怪狩りをモチーフにしているが、妖怪ハンターと妖怪がまとめて西洋的なるものに取り込まれる切なさがなんとも。ただ、その取り込まれ方が秀逸すぎ。
なお、細かいところではあるが、作者の明らかに勘違いという思えるミス、特にアジア関係の表記に関していくつか見受けられた。こういう時代なのでもう少し精度には気を配ってもらいたいものである。
まずは収録作。
The Paper Menagerie「紙の動物園」
Mono no Aware「もののあはれ」
To the Moon「月へ」
Tying Knots「結縄」
A Brief History of the Trans-Pacific Tunnel「太平洋横断海底トンネル小史」
The Tides「潮汐」
The Bookmaking Habits of Select Species「選抜宇宙種族の本づくり習性」
The Five Elements of the Heart Mind「心智五行」
Altogether Elsewhere, Vast Herds of Reindeer「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」
Ar「円弧」
The Waves「波」
Single-Bit Error「1ビットのエラー」
The Algorithms for Love「愛のアルゴリズム」
The Literomancer「文字占い師」
Good Hunting「良い狩りを」

さて肝心の中身だが、噂に違わぬ面白さであった。
ケン・リュウは中国出身。十一歳のとき家族とともに渡米し、ハーバード大学で文学とコンピュータを学んだ人物で、そういった来歴が作品にもストレートに顕れている。東洋と西洋の文化や宗教観の対立、伝統文化と最先端のテクノロジーの融合や衝突など、いろいろな素材を使ってそのような構図が繰り返し描かれ、そこから普遍的な真理を見出そうとする。
西洋人にとって珍しい(かつ魅力的な)素材を多用していること、また、それらをSFに絡めることで、一見新しさを纏ってはいるが、そのテーマは実際のところ非常にオーソドックスで特に目新しさはない。
ないのだけれど、それらの素材の調合の仕方や語りが絶妙なのである。常に過去と向きあっているような、感傷的でウェットなスタイルは、儚さを感じさせて実に美しい。
印象に残った作品はいろいろあるが、表題作の「紙の動物園」とラストの「良い狩りを」は別格という感じ。この二作が読めただけで元はとれた。
「紙の動物園」は正直、完成度は高くない。紙の動物を操ることの意義が不明瞭だし、ラストの手紙がストレートすぎる。それでもこの作品の持つ精神的な美しさとビジュアル的な美しさは捨てがたい。
「良い狩りを」も前半と後半のギャップが大きく、全体には荒っぽさが漂う。妖怪狩りをモチーフにしているが、妖怪ハンターと妖怪がまとめて西洋的なるものに取り込まれる切なさがなんとも。ただ、その取り込まれ方が秀逸すぎ。
なお、細かいところではあるが、作者の明らかに勘違いという思えるミス、特にアジア関係の表記に関していくつか見受けられた。こういう時代なのでもう少し精度には気を配ってもらいたいものである。
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確かに又吉さん効果がすごいみたいで、一時期は品切れの書店さんもあったようですね。まあ最近はどこでも見かけますから図書館などと言わず、ぜひお買い求めを(笑)