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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

野村芳太郎『八つ墓村』

 最近、横溝映画をぼちぼちと消化しているが、本日はおなじみ市川崑作品から少し離れ、松竹から野村芳太郎監督の『八つ墓村』を視聴。1977年の公開で、当時は「たたりじゃ~」のテレビCMや金田一を渥美清が演じたことでも話題になった作品である。

 空港で働く寺田辰弥は、ある日の新聞で自分を探す尋ね人広告を目にする。これまで自分の出自について詳しいことを知らなかった辰弥は、さっそく大阪の法律事務所を訪れるが、そこで初めて会った母方の祖父・井川丑松が突然、苦しんで死亡してしまう。
 状況もはっきりしないまま、辰弥は父方の親戚の未亡人・森美也子の案内で生れ故郷の八つ墓村に向かったが……。

 八つ墓村

 本作を語るときに忘れてはいけないことが二つある。
 ひとつは作品の世界観というか全体的なテイストの部分。
 横溝正史の作品でもトップクラスの知名度を誇る『八つ墓村』だが、『本陣殺人事件』や『獄門島』といった他のメジャー作品とはやや趣向が異なっている。金田一耕助も登場するけれど、主人公はあくまで寺田辰弥であり、そのテイストは本格謎解きものというより、巻き込まれ型のスリラーといった趣なのだ。
 そしてこの野村芳太郎版『八つ墓村』では、事件の元になる落ち武者の伝説、その祟りともいわれたかつて村を襲った連続殺人事件をフィーチャーし、スリラーを超えてホラーやオカルト映画レベルにまでもっていってしまった。もちろん本筋に関わる部分に超自然的要素を盛り込んでいるわけではなく、あくまで一部のビジュアルをホラー的に演出しているレベルではあるが、野村芳太郎版『八つ墓村』はこれがあるからこそ要注目なのだ。
 もちろん野村監督のこと、ただ安易にホラー趣味を持ち出しているのではない。それが現代につながる因縁や人間の業を表現するための手段であることは容易に推察できるし、だからこそ許されるところではあるのだが。

 もうひとつは金田一耕助のキャスティング。なんせ当時はほぼ寅さん一本槍の渥美清。このイメージのまま金田一耕助といってもなかなか厳しい。
 映画やテレビではすでに石坂金田一や古谷金田一が活躍しており、ここに殴り込みをかけるということで、松竹も相当気合が入っていたはず。生半可なキャスティングではだめだろうと国民的スターを担ぎ出したのだろう。とはいえ寅さんは寅さんなのだが(笑)。
 実際のところ、管理人も当時は受け入れられなかったのだが、不思議なもので年をとるとなぜか馴染んできてしまい、今ではこれはこれでありかなという心情である。まあ、寅さんのイメージがあるだけで、渥美清自体の演技はしっかりしているし、オカルト風味を渥美清のキャラクターが中和しているのも結果的にはいい按配となっている。
 ちなみにその他の俳優陣もかなり豪華で、演技としては全体的に見応えがある。ただ、双子のばあさんはもっと怖い方がよかったが。市原悦子にしては不気味さが足りない。

 結局、問題があるとすれば、上で挙げたホラー風味の部分や渥美金田一などではなく、実は原作の改変度合いが大きすぎるシナリオだろう。本格でなくともよいけれど、やはりミステリ映画として押さえるところは押さえてもらわないと。それが最大の不満である。
 雰囲気や豪華キャストの妙を楽しむならおすすめ。ミステリ映画としてならいまひとつ。まとめとしては緩いけれど、これでご容赦のほどを。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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