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 かつて草思社が〈ロマン・ノワール〉というシリーズ名でフランスミステリを発刊したことがある。だが日本の翻訳ミステリシーンに新風を吹き込むところまではいかず、ジャン・ヴォートランとデイディエ・デナンクスの二人を紹介しただけで、割合に早く頓挫してしまった。
 とはいえ作品がつまらなかったわけでは決してない。ジャン・ヴォートランの『パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない』は「このミス」1996年度ベストテンに入ったほどで、一般にウケる作品ではないのだけれど、捻くれ具合が悪くなかった。その後文春文庫から出た『グルーム』はストレートに狂気を孕んだ物語で、こちらもなかなかの出来であった。

 一方のデイディエ・デナンクスだが、こちらは読む機会を逸したまま、はや十年以上の積ん読。今度、草思社からハメットの短篇集が出るというニュースを知り、そういえば草思社って昔ミステリを出していたよなぁと思い出したのがデナンクスの作品だった。まあ、こういうキッカケでもないとなかなかこの辺りの作品は手に取らないので、興味が失せる前にあわてて読んでみた次第。
 デナンクスの作品は草思社から都合三冊刊行されたが、まずは『記憶のための殺人』。

 1961年、パリでは大規模なアルジェリア人のデモが行われ、その最中に一人の歴史教師が殺害された。機動隊の制服を着た何者かに襲いかかられ、頭部を撃たれたのだ。
 それから20年後、歴史教師の息子が恋人とともにフランス西南部の町トゥールーズを訪れていたが、公文書館を出た直後に射殺されるという事件が起こる。捜査を担当した刑事のカダンは二つの事件に関連があるのではないかと考えるが、やがてフランスの抱える闇に直面してゆく……。

 記憶のための殺人

 フランス現代史を背景にしたミステリで、二十年越しの二件の殺人という設定と導入は魅力的だが、正直な話ミステリとしてそれほどスリリングというわけではない。謎が明かされる過程も意外に淡々としており、全体にフランスのミステリ作家はこの辺りが英米の作家に比べると淡白なのが残念だ(ポール・アルテや最近のルメートルなどはこういう部分が負けていないからこそ、日本でもあれだけ評判になったのだろう)。

 ただ、フランスの作家が犯罪の謎に興味がないかというとそんなことはなく、その謎をどこに置くかが異なるのである。例えば本格作家がトリックやロジックに謎を設定するように、フランスの作家、特にノワールの作家は個人の内部にある闇、さらには社会システムの暗部について設定する。
 そういう意味では、本作におけるデナンクスの視線は間違いなくフランスの現代史に向けられており、ひとつの問題定義をストレートに行っているのが大きな特徴である。

 惜しむらくはそういうアプローチが、もう少し物語としての面白さに直結していれば、ということ。本作も一応フランス推理小説大賞受賞作なのだが、お国柄もあるのか、面白がるポイントはやはり違うのかねぇ。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



















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